『眠れぬおまえに遠くの夜を』桐野夏生|あの人は何を思うのだろう?


【2026年85冊目】
今回ご紹介する一冊は、
桐野夏生著
『眠れぬおまえに遠くの夜を』です。
韓国エンタメやK-POPの裏側に興味がある人
あらすじと感想
かつて光り輝いていた男は、終わってしまった・・
韓国の芸能界を舞台に描く、二人の男の物語です
芸能界とは人を食う魔界なのか
ある男(テミン)が、かつて人気絶頂の有名人であった
終わった男(ナダン)のことを回想し、独白する形式でこの暗い物語は進みます
いったい二人の間に何があったのか?
正反対のふたり
資産家の元に産まれたテミンはアメリカに留学し、何不自由ない豊かな暮らしをしていた
ある日、下町の韓国人街を訪れていた時のこと、歌謡コンテストに出場していた少年を見て衝撃を受け思うのだ・・彼はいずれきっとスターになる!と
その少年ナダンの親はIMF危機により韓国では暮らしていけなくなり、アメリカへ移住したものの両親は離婚し、ナダンは再婚した父親のもとで貧しく辛い暮らしを余儀なくされていたのだ
対照的なナダンにテミンは惹かれ交流を深めてゆく
一発逆転でスターダム!
そのナダンがK-POPグループとしてデビューするとたちまち大人気となる
あっという間に芸能界の頂点に立ち、二人の関係は大きく変化する
そして年月は流れ、テミンもまた俳優としてデビューし芸能人の一員となる頃、テミンはレイプ疑惑がもたれ、彼の人生は再び暗転するのだ
恵まれた俺は何も知らなかった、とテミンは自らを省みて思います
故国を追われ家庭も崩壊したナダンの気持ちにはきっと寄り添えない
他人の心の内の本当の思いは絶対にうかがい知れないのだ
でも期待を裏切られると失望してしまう
その後K-POPスターとなったナダンに、テミンは複雑な思いを抱きます
貧しかったころ援助してやったのに、お礼の電話一本掛けてこないなんて許せない
一挙にスターダムをのし上がった者は何を思い、何かを忘れてしまうのでしょうか?
韓国芸能界の闇
全体に暗いイメージが漂う本作の闇をさらに濃くするのが韓国芸能界のありようです
全ての利益を芸能事務所が吸い上げタレントを徹底的に搾取する仕組みが、怖い
…でもさらに恐ろしいのが芸能界を支えるファンたちの無自覚な脅威です
タレントを嗜好品として消費し、いったんイメージを合わなくなると攻撃する
形をもたない人気やSNSのフォロワー数に一喜一憂するタレントが、哀れです
破滅を希求するアンビバレント
さて、レイプ疑惑に端を発したナダンの騒動はやがて韓国芸能界からの永久追放という最悪の形で幕を閉じます
しかし、それは芸能界という厳しい世界からの解放を意味するもの
引退とは虚しさとともに一抹の羨ましさを感じさせるのかもしれない
終わっても続く人生
けれど、韓国芸能界から永久追放されても人生が終わったわけではない
物語のラストはテミンとナダンが再び一瞬邂逅するシーンで幕を閉じる

その時ナダンがテミンにかけた『わたしはあなたのファンです』という言葉を、どういう意味にとっていいのか僕は混乱しました
桐野作品らしい、いかようにも解釈できる複雑さが長く後を引きました
人は何に惹かれて他人に興味を持つのか?
のし上がりそして落ちるタレントの姿から、韓国芸能界の濃い闇とファンたちの無自覚な
恐ろしさを描く、重厚な人間ドラマでした

あなたには推しているタレントがいますか?
作品紹介(出版社より)
桐野夏生が描く韓国芸能界と「墜ちる男」
32歳で遅咲きのデビューを果たし、人気俳優として活躍するパク・テミンは、「終わった男」ことニック・ナダンについて語り始めた。
10代の頃、ともに過ごしたヴァージニア州・アナンデールでの日々。しかし道は分かれ、ナダンは驚くべき速さで成功を収め、これまた驚くべき速さで凋落していった。
世界を股にかけるK-POPグループの一員であるという酩酊と、祖国からの追放。
挫折と成功、ふたりの男の運命が交錯する。
韓国芸能界を舞台、圧倒的彩度の独白、桐野文学の極北がここに。
“ナダンの話に興味を持つ人は、そう多くはないはずだ。
「ナダン? あのナダン? 彼は終わったよ」。
誰もがそう言うからだ。
彼はあっという間にアイドルとして頂点を極め、
俳優としても才能を認められた。
だが、十五年後には、何もかも失っていた。
これは、ナダンが驚くべき速さで成功を収め、
これまた驚くべき速さで凋落していった物語でもある。”
作品データ
タイトル:『眠れぬおまえに遠くの夜を』
著者:桐野夏生
出版社:文藝春秋
発売日:2026/4/22
作家紹介
桐野夏生(きりの・なつお)
1951年金沢市生まれ。
1993年「顔に降りかかる雨」で江戸川乱歩賞受賞。
1998年『OUT』で日本推理作家協会賞受賞。
1999年『柔らかな頬』で直木賞受賞。
2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞受賞。
2004年『残虐記』で柴田錬三郎賞受賞。
2005年『魂萌え!』で婦人公論文芸賞受賞。
2008年『東京島』で谷崎潤一郎賞受賞。
2009年『女神記』で紫式部文学賞受賞。
2010年、2011年『ナニカアル』で島清恋愛文学賞と読売文学賞の二賞を受賞。
2015年には紫綬褒章を受章。
2021年には早稲田大学坪内逍遥大賞を受賞。
『バラカ』『日没』『インドラネット』『砂に埋もれる犬』など著書多数。
桐野夏生の作品
『 熱い水のような砂 』 (1986年2月)
『 真昼のレイン 』 (1986年7月)
『 顔に降りかかる雨– ミロシリーズ1 』 (1993年9月)
『 天使に見捨てられた夜– ミロシリーズ2 』(1994年6月)
『 ファイアボール・ブルース 』(1995年1月)
『 OUT 』(1997年7月)
『 錆びる心 』(短編集)(1997年11月)
『 水の眠り 灰の夢– ミロシリーズ3 』(1998年10月)
『 ジオラマ 』(短編集)(1998年11月)
『 柔らかな頬 』(1999年4月)
『 ローズガーデン– ミロシリーズ4 』(短編集)(2000年6月)
『 光源 』 (2000年9月)
『 玉蘭 』 (2001年3月)
『 ファイアボール・ブルース2 』(短編集)(2001年8月)
『 ダーク– ミロシリーズ5 』(2002年10月)
『 リアルワールド 』(2003年2月)
『 グロテスク 』(2003年6月)
『 残虐記 』(2004年2月)
『 I’m sorry, mama. 』(2004年11月)
『 魂萌え! 』(2005年4月)
『 冒険の国 』(2005年10月)
『 アンボス・ムンドス– ふたつの世界 』(短編集)(2005年10月)
『 メタボラ 』(2007年5月)
『 はじめての文学 』(2007年8月)
『 東京島 』(2008年5月)
『 女神記 』(2008年11月)
『 IN 』(2009年5月)
『 ナニカアル 』(2010年2月)
『 優しいおとな 』(2010年9月)
『 ポリティコン 』(2011年2月)
『 緑の毒 』(2011年8月)
『 ハピネス 』(2013年2月)
『 だから荒野 』(2013年10月)
『 夜また夜の深い夜 』(2014年10月)
『 奴隷小説 』(短編集)(2015年1月)
『 抱く女 』(2015年6月)
『 バラカ 』(2016年2月)
『 猿の見る夢 』(2016年8月)
『 夜の谷を行く 』(2017年3月)
『 デンジャラス 』(2017年6月)
『 路上のX 』(2018年2月)
『 ロンリネス 』(2018年6月)
『 とめどなく囁く 』(2019年3月)
『 日没 』(2020年9月)
『 インドラネット 』(2021年5月)
『 砂に埋もれる犬 』(2021年10月)
『燕は戻ってこない』(2022年3月)
『真珠とダイヤモンド上』(2023年2月)
『真珠とダイヤモンド下』(2023年2月)
『もっと悪い妻』 (20233年6月)
『オパールの炎』2024/6/7
『ダークネス』2025/7/30
『眠れぬおまえに遠くの夜を』2026/4/22


