【感想】『砂に埋もれる犬』桐野夏生|型にはまらない者は、どこに収まればいいのか

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砂に埋もれる犬|桐野夏生

ケイチャン

ケイチャン

今回ご紹介する一冊は、

桐野夏生 著

『砂に埋もれる犬』です。

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【感想】「型にはまらない者は、どこに収まればいいのか」

ネグレイトについての小説

荒れ果てた荒野を旅するようです
たとえ日照りに渇いても
飲む水などなく
常に飢え食べ物を求めてさまよい
強風に揉まれ苛まれる
そんな少年の物語です

「型にはまらない者は、どこに収まればいいのか」

物語の前半はネグレイトされた少年のサバイバルです
自堕落な母の私生児として生まれた少年、優真(ゆうま)
小学校にも通えず
幼い弟と共に
飢えと暴力に晒されて
ただ日々を生き抜く

ここでキーとなるのが
僕達が生きる上で必要は
『型』です
それは人たらしめる規範
社会で必要な枠組みです

幼い内は家庭内のしつけによって
僕たちは形作られたのでしょう
挨拶や礼儀など教わり
保育園や小学校で
はみ出ないように
形作られます

しかし放任された優真は
それが無い

そして物語の後半は
養父母に引き取られてからの物語
親切な養父母
暖かい家庭
もう食べ物にも暴力にも
心配する必要のない生活

だが優真は幸せになれない

中学生になった優真
この年齢での『型』は
空気を読むとか
気持ちを忖度するとか
難易度が上がります
そしてその型からはみ出るものを
クラスは絶対に許さない

いびつな優真の居場所は
どこにもありはしない

人の暗い面をえぐるようです
むろん桐野夏生のストーリーに
安易な救いや
ご都合主義などなく
ひたすらに苦しい
今この世界できっとある
現実を曝け出すような物語です

渇いた風の行方は、どこ?

作品紹介(出版社より)

貧困と虐待の連鎖――。
母親という牢獄から脱け出した少年は、
女たちへの憎悪を加速させた。

ジャンルを超えて文芸界をリードする著者の新たな傑作
予定調和を打ち砕く圧倒的リアリズム!

小学校にも通わせてもらえず、日々の食事もままならない生活を送る優真。
母親の亜紀は刹那的な欲望しか満たそうとせず、同棲相手の男に媚びるばかりだ。
そんな最悪な環境のなか、優真が虐待を受けているのではないかと手を差し伸べるコンビニ店主が現れる――。

ネグレクトによって家族からの愛を受けぬまま思春期を迎えた少年の魂は、どこへ向かうのか。
その乾いた心の在りようを物語に昇華させた傑作長編小説。

作品データ

タイトル:『砂に埋もれる犬』
著者:桐野夏生
出版社:朝日新聞出版
発売日:2021/10/7

電子書籍はこちら↓

作家紹介

桐野夏生(きりの・なつお)

1951年生まれ。
1993年『顔に降りかかる雨』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。
1998年『OUT』で日本推理作家協会賞受賞。
1999年『柔らかな頬』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞。
2004年『残虐記』で柴田錬三郎賞。
2005年『魂萌え!』で 婦人公論文芸賞。
2008年『東京島』で谷崎潤一郎賞。
2009年『女神記』で紫式部文学賞を受賞。

桐野夏生の作品

『 熱い水のような砂 』 (1986年2月)
『 真昼のレイン 』 (1986年7月)
『 顔に降りかかる雨– ミロシリーズ1 』 (1993年9月)
『 天使に見捨てられた夜– ミロシリーズ2 』(1994年6月)
『 ファイアボール・ブルース 』(1995年1月)
『 OUT 』(1997年7月)
『 錆びる心 』(短編集)(1997年11月)
『 水の眠り 灰の夢– ミロシリーズ3 』(1998年10月)
『 ジオラマ 』(短編集)(1998年11月)
『 柔らかな頬 』(1999年4月)
『 ローズガーデン– ミロシリーズ4 』(短編集)(2000年6月)
『 光源 』 (2000年9月)
『 玉蘭 』 (2001年3月)
『 ファイアボール・ブルース2 』(短編集)(2001年8月)
『 ダーク– ミロシリーズ5 』(2002年10月)
『 リアルワールド 』(2003年2月)
『 グロテスク 』(2003年6月)
『 残虐記 』(2004年2月)
『 I’m sorry, mama. 』(2004年11月)
『 魂萌え! 』(2005年4月)
『 冒険の国 』(2005年10月)
『 アンボス・ムンドス– ふたつの世界 』(短編集)(2005年10月)
『 メタボラ 』(2007年5月)
『 はじめての文学 』(2007年8月)
『 東京島 』(2008年5月)
『 女神記 』(2008年11月)
『 IN 』(2009年5月)
『 ナニカアル 』(2010年2月)
『 優しいおとな 』(2010年9月)
『 ポリティコン 』(2011年2月)
『 緑の毒 』(2011年8月)
『 ハピネス 』(2013年2月)
『 だから荒野 』(2013年10月)
『 夜また夜の深い夜 』(2014年10月)
『 奴隷小説 』(短編集)(2015年1月)
『 抱く女 』(2015年6月)
『 バラカ 』(2016年2月)
『 猿の見る夢 』(2016年8月)
『 夜の谷を行く 』(2017年3月)
『 デンジャラス 』(2017年6月)
『 路上のX 』(2018年2月)
『 ロンリネス 』(2018年6月)
『 とめどなく囁く 』(2019年3月)
『 日没 』(2020年9月)
『 インドラネット 』(2021年5月)
『 砂に埋もれる犬 』(2021年10月)

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