【感想】『失われた岬』篠田節子|心の平穏とは何か?

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失われた岬|篠田節子

ケイチャン

ケイチャン

メリークリスマス!

今回ご紹介する一冊は、

篠田節子 著

『失われた岬』です。

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【感想】「心の平穏とは何か?」

近未来の日本を舞台とした長編小説

冒頭から3章まで群像劇のように進みます
そのあとピタピタとパズルが嵌まるかのように
物語は1本の道をゆく

岬に呼ばれる・・

失踪者を探し求めて
捜索者が行き着くのは

北海道の寒村

失踪者が向かった先は

とある岬

そこは生い茂るハイマツが人の侵入を拒み
夏はヒグマがうろつき
冬は風雪に閉ざされる
人が住むと思えない過酷な環境です
本当にそこに人がいるのか?
一体そこで何をしているのか?
語られる本書のテーマは

「心の平穏とは何か?」です

心が病む時代
金銭・人間関係など事情は様々ですが
現代に生きる僕たちは皆
なにかしら不安感を抱いていることでしょう
満たされない、心

岬の住民は霊薬によって
心の平安を得た者たちでした
彼らはついに心の平穏
アタラクシアに辿りついたのか?

しかし、何かを得るには代償が必要
彼らが支払ったもの、それは
『欲』です

ここからの展開が物凄い!

欲を棄て、心の平穏を得る
しかしそれは生きる輝きを失うこと
皆さんを感じることがあるでしょう
仕事終わりの、ビール
気になる異性からの、ひと言
忙しい日々のままならない生活の中で
ささやかな幸せを繋ぎ合わせて生きている
心のよりどころと言えるでしょう

それすら失ってしまう

あとに残るものは空虚な心
喜びも悲しみもなく
ただ平穏であるだけ

物語はこの岬の成立について、さかのぼる過去と
大国のエゴと人々の無関心で急速に悪化する
近未来の今の2つの視点から
平穏と欲の、心の対比を
鮮やかに描き出します

それは相反するようで
等価値のものかも知れません

欲を棄てた、聖人に堕ちるか
欲にまみれた、人の喜びを全うするか
どちらが幸せなのか・・わからない

575ページの分厚さにふさわしい
重厚な内容です

戦争に邁進した、過去
モノ・金が第一の、現在
その欲望が行き着く先の、未来
全てに警鐘をならす
ディストピア小説のようにも思えます

鳴り響くアラート音が耳を苛む
それでも岬へ行かず
苦界であるこの世界に留まることを
あなたは選びますか?

作品紹介(出版社より)

古い友人も、ノーベル賞作家も、「岬」に消えた。神無き時代の新たな黙示録

古くからの友人も、ノーベル賞作家も、その「岬」に消えた――

この物語はあなたを、思いもよらぬところまで連れて行く。

人が人であるというのは、どういうことなのか。
練熟の著者が今の時代に問う、神無き時代の新たな黙示録。

以前から美都子が夫婦ぐるみで付き合ってきた、憧れの存在である友人・清花。だが近年、清花夫妻の暮らしぶりが以前とは異なる漂白感を感じさせるようになり、付き合いも拒否されるようになったのち連絡がつかなくなった。清花たちは北海道に転居後、一人娘・愛子に「岬に行く」というメッセージを残し失踪したようだ。彼女の変貌と失踪には肇子という女性が関わっているようだが、その女性の正体も分からない。
時は流れ約二十年後の二〇二九年、ノーベル文学賞を受賞した日本人作家・一ノ瀬和紀が、その授賞式の前日にストックホルムで失踪してしまった。彼は、「もう一つの世界に入る」という書置きを残していた。担当編集者である駒川書林の相沢礼治は、さまざまな手段で一ノ瀬の足取りを追うなかで、北海道のある岬に辿りつくが――。

やがて明らかになる、この岬の謎。そこでは特別な薬草が栽培され、ある薬が精製されているようで……。
近未来から戦時中にも遡る、この国の現実の様相。

岬に引き寄せられる人々の姿を通して人間の欲望の行き着く先を予見した、著者畢生の大作。

作品データ

タイトル:『失われた岬』
著者:篠田節子
出版社:KADOKAWA
発売日:2021/10/29

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作家紹介

東京都生まれ。東京学芸大学卒。
1990年『絹の変容』で第三回小説すばる新人賞を受賞。
1997年『ゴサイタン―神の座―』で第十回山本周五郎賞受。
1997年『女たちのジハード』で第百十七回直木賞を受賞。
2009年『仮想儀礼』で第二十二回柴田錬三郎賞を受賞。

篠田節子の作品

『 絹の変容 』(1993年8月)
『 神の座 ゴサインタン 』(2002年10月)
『 女たちのジハード 』(2000年1月)
『 仮想儀礼・上 』(2008年12月)
『 仮想儀礼・下 』(2011年5月)
『 長女たち 』(2014年2月)
『 ブラックボックス 』(2013年1月)
『 鏡の背面 』(2018年7月)
『 夏の災厄 』(1998年6月)
『 インドクリスタル 』(2014年12月)
『 弥勒 』(2001年10月)
『 夏の災厄 』(2015年2月)
『 聖域 』(2008年7月)
『 神鳥イビス 』(1996年10月)
『 銀婚式 』(2011年12月)
『 となりのセレブたち 』(2015年9月)
『 ハルモニア 』(2001年2月)
『 カノン 』(1999年4月)
『 長女たち 』(2017年9月)
『 田舎のポルシェ 』(2021年4月)
『 コミュニティ 』(2009年7月)
『 はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか 』(2011年7月)
『 冬の光 』(2015年11月)

…他多数

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