
ケイチャン
【2025年64冊目】
今回ご紹介する一冊は、
井上荒野 著
『しずかなパレード』です。
もくじ
【感想】「いつまでも気持ち悪さが消えないんだ・・」
「好きな人がいる」そう言って家を出た妻は
どこにも戻らなかった
人の不在を描き、人の内面に深く潜る
不穏にざわめく群像小説です
誕生日の夜に家を飛び出す晶(あきら)さん
老舗和菓子屋主人の夫、伸伍(しんご)と
4歳になる娘の、結生(ゆき)ちゃんを置いて
不倫相手の脚本家の別荘へと愛車を走らせます
勢いで家を飛び出した晶さんが出会うのが
毎週おかしなパフォーマンスを披露し
その日の夕方、引退パレードをしていた
街の名物男(元)カンフーマンです
元カンフーマンに声をかける晶さん
なぜ声をかけてしまったのか?
それが戻れないきっかけだったのか?
晶は消えてしまうのだ
物語はここから、残された人たち
夫、娘、浮気相手、そして浮気相手の妻など
主人公を変えながら晶さんが
いなくなった世界を描いてゆく

ケイチャン
1行目から面白い作家
それが井上荒野です
フリーダイビングするように
この不穏な物語にのめり込む
ステレオタイプな人間など
1人も登場しない
複雑な思考をし、衝動で動く
多層構造なキャラクターばかりです
さて消えてしまった晶さんは
10年たっても現れません
いつまでも気持ち悪さを抱え続ける

ケイチャン
伸伍さんと結生ちゃんが可哀相です
そんな重しを抱えたまま
日常はつるつると続いてゆく
平穏な日々のすぐ裏側に
恐ろしい真実が隠れているのに!
穏やかな海を泳いでいる
けどそこは水深千メートルもの
深海の海面なのだ

ケイチャン
気が付けば足がすくむような場所で
僕たちは生きている・・

ケイチャン
そんな思いになる
不穏な深海の物語でした
作品紹介(出版社より)
私はあの人と付き合うとるとよ。
あの人を好いとると。そう言い残して、一人の女が姿を消した。
失踪したのか、死亡したのか――。圧倒的な「不在」がもたらす感情を炙り出す、
不穏でミステリアスな物語。誰にでも自分だけの神様がいるのかもしれない。
だとすれば、その神様は私の味方であるはずだ。東京から佐世保の和菓子店に嫁ぎ、娘を育てながら若女将として生きる、晶。誕生祝いの夜、夫から贈られたエルメスのバングルを手首に巻きながら、好きな人がいる、その人のところへ行くと告げ、いなくなった。残された夫・信伍の怒りと嘆き、愛人・武藤の不審と自嘲、捨てられたと感じながら成長する娘・結生……。「不在」の12年間を、さまざまな視点から綴る長編小説。
作品データ
タイトル:『しずかなパレード』
著者:井上荒野
出版社:幻冬舎
発売日:2025/2/19
作家紹介
井上荒野(いのうえ・あれの)
1961年東京生まれ。成蹊大学文学部卒。
1989年『 わたしのヌレエフ 』で第1回フェミナ賞を受賞。
2004年『潤一』で第11回島清恋愛文学賞を受賞。
2008年『切羽へ』で第139回直木賞を受賞。
2011年『そこへ行くな』で第6回中央公論文芸賞を受賞。
2016年『赤へ』で第29回柴田錬三郎賞を受賞。
2018年『その話は今日はやめておきましょう』で第35回織田作之助賞を受賞。
その他、『あちらにいる鬼』『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』『小説家の一日』『照子と瑠衣』など著書多数。
井上荒野 の作品
『グラジオラスの耳』 1991/05/01
『もう切るわ』 2001/10/01
『ひどい感じ―父・井上光晴』 2002/08/01
『ヌルイコイ』 2002/10/01
『潤一』 2003/11/01
『森のなかのママ』 2004/03/26
『だりや荘』 2004/07/22
『しかたのない水』 2005/01/26
『誰よりも美しい妻』 2005/12/15
『不恰好な朝の馬』 2006/10/31
『学園のパーシモン』 2007/01/01
『ズームーデイズ』 2007/07/01
『ベーコン』 2007/10/26
『夜を着る』 2008/02/18
『切羽へ』 2008/05/01
『あなたの獣』 2008/11/29
『雉猫心中』 2009/01/22
『静子の日常』 2009/07/01
『女ともだち』 2010/03/18
『つやのよる』 2010/04/01
『もう二度と食べたくないあまいもの』 2010/04/10
『チーズと塩と豆と』 2010/10/05
『ベッドの下のNADA』 2010/12/09
『ハニーズと八つの秘めごと』 2011/02/25
『そこへ行くな』 2011/06/24
『キャベツ炒めに捧ぐ』 2011/09/01
『だれかの木琴』 2011/12/09
『結婚』 2012/03/27
『夜をぶっとばせ』 2012/05/18
『さようなら、猫』 2012/09/15
『それを愛とまちがえるから』 2013/01/24
『あなたにだけわかること』 2013/05/24
『ほろびぬ姫』2013/10/31
『夢のなかの魚屋の地図』 2013/12/21
『虫娘』 2014/08/27
『悪い恋人』 2014/12/05
『ママがやった』 2016/01/16
『赤へ』 2016/06/14
『綴られる愛人』 2016/10/05
『あなたならどうする』 2017/06/16
『その話は今日はやめておきましょう』 2018/05/18
『あちらにいる鬼』 2019/02/07
『あたしたち、海へ』 2019/11/27
『そこにはいない男たちについて』 2020/07/15
『ママナラナイ』 2020/10/14
『百合中毒』 2021/04/26
『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』 2022/04/07
『小説家の一日』 2022/10/13
『荒野の胃袋』 2022/10/20
『僕の女を探しているんだ』 2023/02/20
『錠剤F』2024/1/10
『猛獣ども』2024/8/7
『だめになった僕』2024/10/16
『しずかなパレード』2025/2/19