【感想】『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』井上荒野|思い返すたびに、屈辱に身を震わせる日々

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生皮 あるセクシャルハラスメントの光景|井上荒野

ケイチャン

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【2022年73冊目】

今回ご紹介する一冊は、

井上荒野 著

『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』です。

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【感想】「思い返すたびに、屈辱に身を震わせる日々」

セクハラから生還する女性達の物語です

あれはレイプであった
7年前、小説講座の講師から受けた行為・・それが咲歩(さくほ)を苛む
思い出すだけで身が竦む恐怖、忘れられない屈辱の記憶
この思いを抱えて、このまま沈黙していていいのか?
いいや私は怒るべきなのだ!
そして咲歩は講師の月島を告発したのだ

講師と生徒、明らかな上下関係です
抗えない立場の弱き者を、自分の思いのままにする
月島はその行為を、恋愛関係の一環であったと
自らを弁護します、恥知らずの卑怯者です

一方、咲歩も自らの行動を振り返っては
あの時キッパリと断ることが出来たのではないかと後悔する
けれどそれは何度も何度も自分を鞭打つ行為です
思い返すたびにまた傷つく
そう心の傷は忘れ去るまで、癒えることはないのです

「思い返すたびに、屈辱に身を震わせる日々」

物語はセクハラを告発し、過去と対決する咲歩と
告発を受けて、全てを失う月島と
そこに関係する人々を描く、群像劇として展開します
それぞれ立場が違うので、セクハラの捉え方も様々です

やはり根本となるのが、無意識のうちに女性を低く見て
性的な対象物として、軽く捉える男性本位の社会があるのでしょう
そこに女性の心をおもんばかる、気持ちが欠けている

それに加えて、自分の社会的な地位を利用して恥じない
浅ましい獣性がおぞましいです
講師の月島の、自分を正当化する言葉が
同じ男性として、耳に痛い

物語は月島の生徒であった、芥川賞作家の小荒間洋子(こあらま ようこ)が
自分もレイプを受けたと、月島を告発したことで決定的になります
もう私達は黙ったままではいない
咲歩と洋子は過去に立ち向かい、未来を生き直す
大きな一歩を踏み出したのです

多数の登場人物が、それぞれに自分の意見を表すところも
本作の深みを増すところです

再生へ向かう女性達に
エールを送りたくなる
そんな物語でした

作品紹介(出版社より)

皮を剥がされた体と心は未だに血を流している。

動物病院の看護師で、物を書くことが好きな九重咲歩は、小説講座の人気講師・月島光一から才能の萌芽を認められ、教室内で特別扱いされていた。しかし月島による咲歩への執着はエスカレートし、肉体関係を迫るほどにまで歪んでいく–。

7年後、何人もの受講生を作家デビューさせた月島は教え子たちから慕われ、マスコミからも注目を浴びはじめるなか、咲歩はみずからの性被害を告発する決意をする。

なぜセクハラは起きたのか? 家族たちは事件をいかに受け止めるのか? 被害者の傷は癒えることがあるのか? 被害者と加害者、その家族、受講者たち、さらにはメディア、SNSを巻き込みながら、性被害をめぐる当事者たちの生々しい感情と、ハラスメントが醸成される空気を重層的に活写する、著者の新たな代表作

作品データ

タイトル:『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』
著者:井上荒野
出版社:朝日新聞出版
発売日:2022/4/7

作家紹介

井上荒野(いのうえ・あれの)

1961年東京生まれ。成蹊大学文学部卒。
1989年『 わたしのヌレエフ 』で第1回フェミナ賞を受賞。
2004年『潤一』で第11回島清恋愛文学賞を受賞。
2008年『切羽へ』で第139回直木賞を受賞。
2011年『そこへ行くな』で第6回中央公論文芸賞を受賞。
2016年『赤へ』で第29回柴田錬三郎賞を受賞。
2018年『その話は今日はやめておきましょう』で第35回織田作之助賞を受賞。

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井上荒野 の作品

『グラジオラスの耳』 1991/05/01
『もう切るわ』 2001/10/01
『ひどい感じ―父・井上光晴』 2002/08/01
『ヌルイコイ』 2002/10/01
『潤一』 2003/11/01
『森のなかのママ』 2004/03/26
『だりや荘』 2004/07/22
『しかたのない水』 2005/01/26
『誰よりも美しい妻』 2005/12/15
『不恰好な朝の馬』 2006/10/31
『学園のパーシモン』 2007/01/01
『ズームーデイズ』 2007/07/01
『ベーコン』 2007/10/26
『夜を着る』 2008/02/18
『切羽へ』 2008/05/01
『あなたの獣』 2008/11/29
『雉猫心中』 2009/01/22
『静子の日常』 2009/07/01
『女ともだち』 2010/03/18
『つやのよる』 2010/04/01
『もう二度と食べたくないあまいもの』 2010/04/10
『チーズと塩と豆と』 2010/10/05
『ベッドの下のNADA』 2010/12/09
『ハニーズと八つの秘めごと』 2011/02/25
『そこへ行くな』 2011/06/24
『キャベツ炒めに捧ぐ』 2011/09/01
『だれかの木琴』 2011/12/09
『結婚』 2012/03/27
『夜をぶっとばせ』 2012/05/18
『さようなら、猫』 2012/09/15
『それを愛とまちがえるから』 2013/01/24
『あなたにだけわかること』 2013/05/24
『ほろびぬ姫』2013/10/31
『夢のなかの魚屋の地図』 2013/12/21
『虫娘』 2014/08/27
『悪い恋人』 2014/12/05
『ママがやった』 2016/01/16
『赤へ』 2016/06/14
『綴られる愛人』 2016/10/05
『あなたならどうする』 2017/06/16
『その話は今日はやめておきましょう』 2018/05/18
『あちらにいる鬼』 2019/02/07
『あたしたち、海へ』 2019/11/27
『そこにはいない男たちについて』 2020/07/15
『ママナラナイ』 2020/10/14
百合中毒』 2021/04/26
生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』 2022/04/07
『小説家の一日』 2022/10/13
『荒野の胃袋』 2022/10/20
僕の女を探しているんだ』 2023/02/20

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