【感想】『黄色い家』川上未映子|責任感という檻に囚われる

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この世の喜びよ|川上未映子

ケイチャン

ケイチャン

【2023年50冊目】

今回ご紹介する一冊は、

川上未映子 著

『黄色い家』です。

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【感想】「責任感という檻に囚われる」

犯罪小説

少女たちの生活は瓦解した
癒されない傷を負った彼女らの
許されない過去と
苦悩する今を描く
クライムサスペンスです

ちゃんとしていない家庭で育つ

シングルマザーの母
悪い人ではないのだが
倫理観と生活力に欠ける
その娘、花(はな)ちゃんが主人公です

母がいなくなってしまう

不安におびえる花ちゃん
そこに突然現れたのが
何事にも動じない
不思議な雰囲気を持つ女性の
黄美子(きみこ)さんでした

本書のキーパーソンです
発達障害なのか?
コミュニケーションに
違和感ある女性ですが
そこが逆に魅力となり
多くの人が彼女に
心を開きます

わたしに着いておいで・・
そう誘われ、2人で始めたのが
スナック『れもん』です
こうして花の人生を決定づける
共同生活が始まるのでした

「責任感という檻に囚われる」

当初の共同生活は順調そのもの
気の合う蘭と桃子を仲間に加え
スナック『れもん』で働く
充実した生活が描かれます

姉妹のような蘭と桃子
親がわりの黄美子と
ここに花が望んでいたような
疑似家族が誕生するのです

やりがいと温もり
4人の女性がわちゃわちゃと
生活する楽しい様子が
微笑ましい

だが、良かったね
めでたしめでたし・・
とは当然なりません

火事で店が焼けてしまう!
収入の拠点であり
心の拠り所でもある
店を失い、途方にくれる花たち

だが花以外の者は
先々の心配はするが
行動をしようとはしない
ここは私が何とかしなくちゃ・・
全員の生活を背負う
決意をする、花ちゃん

そこで始めたのが、カード詐欺です

裏社会の女性の手下となり
花たちは犯罪行為に走り回る
かくして花は袋小路に中に
追い詰められてゆくのだ

この生活を守らなくてはいけない
生活の能力に欠ける仲間を
助けなくてはならない
花は奮起します
みんなのために私はがんばるんだ!

だがそれは自己満足なのか?
次第に花の存在を負担に思う蘭と桃子
いやいやそれは、余計なお世話なんだよ!と

そして花と黄美子、蘭、桃子の
共同生活は緊迫感が増してゆく
変る関係性に、かつての友愛は無く
崩れる時を待つジェンガのよう

ついに瓦解し、解散する4人
しかしこの失敗は花を蝕む
忘れように忘れられない傷
常に自分自身に苛まれるようです

家族が解散してから
ずっと心の時が止まっていた、花
もう20年も経つのに、動けない
そんな時、黄美子が逮捕された
記事に出会うのです

過去は清算しなくてはならない

勇気を振り絞って黄美子と再会する花
そこで変わらぬ黄美子の姿を見て
やっと心の重しを降ろすことが
出来たのでした

大人が加害者で
子供が被害者とは限らない
幼くても、一生懸命に考えて
した行為に責任をとらなくてもいいのか?

責任感が強い花と
自分本位な蘭と桃子の姿が
対比されています

そして何があっても
自分を変えない黄美子の姿に
不思議な清涼感がありました
自分があるってことは
強いんですね

過去の重しを降ろした花ちゃんの
平穏を祈りたくなるような
結末でした

あなたには深い絆で結ばれた
疑似家族のような人は
いますか?

作品紹介(出版社より)

十七歳の夏、「黄色い家」に集った少女たちの危険な共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解し……。人はなぜ罪を犯すのか。世界が注目する作家が初めて挑む、圧巻のクライム・サスペンス。

作品データ

タイトル:『黄色い家』
著者:川上未映子
出版社:中央公論新社
発売日:2023/2/20

作家紹介

川上 未映子(かわかみ・みえこ)

大阪府生まれ。「乳と卵」で芥川賞、『ヘヴン』で芸術選奨文部科学大臣新人賞および紫式部文学賞、『愛の夢とか』で谷崎潤一郎賞、『夏物語』で毎日出版文化賞など受賞歴多数。『夏物語』は英、米、独、伊などでベストセラーとなり、世界40ヵ国以上で刊行が予定されている。世界でもっとも新作が待たれている作家のひとり。他の作品に『すべて真夜中の恋人たち』、『あこがれ』、『ウィステリアと三人の女たち』、『みみずくは黄昏に飛びたつ』(村上春樹との共著)などがある。

川上 未映子の作品紹介

『わたくし率イン歯-、または世界』(2007年7月)
『乳と卵』(2008年2月)
『ヘヴン(2009年9月)
『すべて真夜中の恋人たち』(2011年10月)
『愛の夢とか』(2013年3月)
『あこがれ』(2015年10月)
『ウィステリアと三人の女たち』(2018年3月)
『夏物語』(2019年7月)
春のこわいもの』(2022年2月)
黄色い家』(2023年2月)

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