【感想】『しろがねの葉』千早茜|銀山が人を生かし、そして殺すのだ

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しろがねの葉|千早茜

ケイチャン

ケイチャン

【2022年149冊目】

今回ご紹介する一冊は、

千早茜著

『しろがねの葉』です。

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【感想】「銀山が人を生かし、そして殺すのだ」

時代小説

ここが私の生きる場所なのだ・・
戦国末期の石見銀山で
汗と土と病にまみれながらも
懸命に生きる庶民を描いた物語です

父と母を失い山中をさまよう少女ウメ
彼女を救ったのは銀の鉱脈を探る名人
山師・喜兵衛(きへえ)でした
そして2人の銀山での生活が始まる

親でもあり師匠でもある喜兵衛の元で
銀山の坑道で働くうちに成長するウメ
それは厳しくも楽しく安定した日々
あたしもいっぱしの山の女になるのだ・・

ずっと喜兵衛と共に生きることを望むウメ
しかしそれは叶えられない夢でした
ウメが初潮を迎え『女』になったとき
張り詰めた糸が切れるように
2人の生活が終わる

「銀山が人を生かし、そして殺すのだ」

『女』となって銀山で働けなくなったウメですが
それが彼女を救うことともなりました
銀山で働くものの業病ヨロケ
肺を病み男たちは若くして死ぬのです

主人公のウメは心に野獣を
住まわすような女性です
しかもその獣性を隠すこともできる
賢さも持っています

しかし意固地で自分を曲げないところもある

そして親を亡くしたためか
自分を愛してくれる存在を
渇くように欲している
喜兵衛、わたしは女になったんだよ!
それなのになぜ離れていくの?

同じ山で育った隼人(はやと)と
所帯を持ち子供も授かる
幸せなはずなのにかつて
喜兵衛と暮らした山に
夜な夜な向かうウメ
人の心は一箇所に留まるとは
限らないのです

複雑な心情描写が
淡々と描かれますが
その内に燃えるような
人の業が見えるようです

やがて血反吐を吐き業病で死す隼人

だがウメの人生は終わらない
隼人の次の男と結ばれ子を産み
その男も業病で死に
ウメの男児も山で働き山で死ぬ

悪夢のようなロンドですが
ウメの生はまだまだ続く

それは血を流しながらも
歩みを止めない旅人のようです
生まれ死に命を繋ぐ・・
目まいするような人の運命

加えて短い人生を受け入れて
死ぬとわかっていて働くのを
止めない男達がホントに辛い
どうしてそこまで山に居るのか?

そこが誇りを持って
生きることが出来る
彼らの生きる場所だからでしょう
山から離れられない
男の弱さを見るようです

結局は女のほうがホントは強い
子を産み男の死も受け入れる
全てを飲み込む山のような
女性のたくましさを感じました

作品紹介(出版社より)

戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。しかし徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出されて……。生きることの官能を描き切った新境地にして渾身の大河長篇!

作品データ

タイトル:『しろがねの葉』
著者:千早茜
出版社:新潮社
発売日:2022/9/29

作家紹介

千早 茜(ちはや・あかね)

1979年北海道生まれ。
2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。
2009年に同作で泉鏡花文学賞受賞。
2013年『あとかた』で島清恋愛文学賞受賞。
2021年『透明な夜の香り』で渡辺淳一賞を受賞。
他の著書に『からまる』『眠りの庭』『男ともだち』『クローゼット』『正しい女たち』『犬も食わない』(尾崎世界観と共著)『鳥籠の小娘』、エッセイに『わるい食べもの』などがある。

千早 茜の作品紹介

『魚神 』(2009年1月)
『おとぎのかけら 』(2010年8月)
『からまる』(2011年2月)
『あやかし草子』(2011年8月)
『森の家』(2012年7月)
『桜の首飾り』(2013年2月)
『あとかた』(2013年6月)
『眠りの庭』(2013年11月)
『男ともだち』(2014年5月)
『西洋菓子店プティ・フール』(2016年2月)
『夜に啼く鳥は』(2016年8月)
『ガーデン』(2017年5月)
『人形たちの白昼夢』(2017年9月)
『クローゼット』(2018年2月)
『正しい女たち』(2018年6月)
『犬も食わない』(2018年10月)
『わるい食べもの』(2018年12月)
『鳥籠の小娘』(2019年1月)
『神様の暇つぶし』(2019年7月)
『さんかく』(2019年10月)
『透明な夜の香り』(2020年4月)
『しつこく わるい食べもの』(2021年2月)
ひきなみ』(2021年4月)
『胃が合うふたり(2021年10月)
『こりずに わるい食べもの』(2021年10月)
しろがねの葉』(2022年9月)

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