【感想】『地図と拳』小川哲|理想へと向かう地図はあるか?

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地図と拳|小川哲

ケイチャン

ケイチャン

【2023年44冊目】
今回ご紹介する一冊は、
小川哲
『地図と拳』です。

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【感想】「理想へと向かう地図はあるか?」

直木賞、山田風太郎賞受賞作

満州国の架空都市を巡るクロニクル

日本が満州を得て失う半世紀の間
荒野の中にある都市を舞台に
戦争の最中に理想を夢みた人々の
生きざまと死にざまを描く物語です

空白の大地は誰のもの?

大清帝国が故国として
禁足の地と定めた満州
人もまばらなこの地へと
人々が流れてきました

食い詰めた漢族
東進政策を掲げるロシア人
そして日露戦争に勝利した日本人でした

様々な民族が集合したこの地では
当然利害が対立し衝突が起こる
本作は民族も主義主張も違う
登場人物たちを群像劇のように
描いていきます

『理想へと向かう地図はあるか?』

本作のキーパーソンとして
細川という飄々として
得体の知れない人物が
物語を通して登場します
敵か味方か?
トリックスター的な存在です

彼が立ち上げた機関
それが10年後の未来地図を予想する
シンクタンクです
若手の天才・秀才を集めて
侃々諤々たる検討の結果
得た答えが
『戦争は避けられない、
そして日本の敗北は必至である』
という無情の結果でした

本作のキモというべきところです

そして物語は
机上の空論としてある
日本の敗北が
涙と、失望と、死によって
現実となる過程が描かれてゆく

登場人物たちが
それぞれの思いのうちに
日本の敗北という
避けられない運命に
立ち向かってゆく

ある者は運命に激しく抗い、
なんとか生き抜こうとする
ある者は運命に逍遥と従い、死ぬ
万華鏡のような人間ドラマが圧巻です

そしてラストは
破壊しつくされた都市で
過去の地図を広げるという
物悲しいシーンで
物語は幕を閉じます

人も都市も
いずれ死に壊れて消え失せる
だからこそ
少しずつ積み上げ
作り上げてゆく日常が
尊いのだ
そのように思いました

あなたの住む街は100年後
どのように地図に
記されていると思いますか?

作品紹介(出版社より)

【第168回直木賞受賞作】
【第13回山田風太郎賞受賞作】

「君は満洲という白紙の地図に、夢を書きこむ」
日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野……。奉天の東にある〈李家鎮〉へと呼び寄せられた男たち。「燃える土」をめぐり、殺戮の半世紀を生きる。

ひとつの都市が現われ、そして消えた。
日露戦争前夜から第2次大戦までの半世紀、満洲の名もない都市で繰り広げられる知略と殺戮。日本SF界の新星が放つ、歴史×空想小説。

作品データ

タイトル:『地図と拳』
著者:小川哲
出版社:集英社
発売日:2022/6/24

作家紹介

小川哲(おがわ・さとし)

1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。
2015年に『ユートロニカのこちら側』で第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。2017年『ゲームの王国』で第38回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞を受賞。
2019年『嘘と正典』で第162回直木三十五賞候補となる。

小川哲 の作品

『ユートロニカのこちら側』 2015/11/20
『ゲームの王国 上・下 』 2017/08/24
『嘘と正典』  2019/09/19
地図と拳』  2022/06/24
『君のクイズ』  2022/10/07

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