【感想】『月の光の届く距離』宇佐美まこと|辛い経験こそ成長と優しさの糧になる

306 views
宇佐美まこと『月の光の届く距離』

ケイチャン

ケイチャン

【2022年23冊目】

今回ご紹介する一冊は、

宇佐美まこと 著

『月の光の届く距離』です。

PR

【感想】「辛い経験こそ成長と優しさの糧になる」

望まぬ妊娠をした17才の女子高生、美優(みゆ)
彼氏には捨てられ、両親には拒絶され家出します
ネオン輝く繁華街をさまよいながら
行く末に暗く絶望する女子高生

風俗嬢に堕ちるより、いっそ人生から落ちようか
ビルの手すりを乗り越えようとした時に現れた
救い主は・・美優よりずっと厳しい経験をしてきた
女性たちだった

「辛い経験こそ成長と優しさの糧になる」

幼年妊娠・貧困・ネグレイト・児童買春
過酷な境遇に喘ぐ少年少女たちの姿と
それを支えようとする人々を描く
悲しく辛くも、優しさと希望がある物語です

冒頭は予期しない妊娠で
平凡な日常と高校生活を失った美優(みゆ)の物語
家庭という基盤を失った未成年者とは
まったく弱いものです

しかし赤ちゃんを失うわけにはいかないと
美優は必死になります
だが17才の少女に何が出来るというのか・・
身を売る以外生きる術のない現実に絶望する

そこに現れたのがNPOで活動する千沙
家に帰えれない美優のために
ゲストハウスに住み込みで働くことを進める
思いもよらない希望に喜ぶが
千沙の背に彫られた夜叉の刺青に驚く
そう千沙もまた過酷な過去を持つ者だった

児童ポルノの被害者としての過去
義父に搾取され価値を高めるため
千沙は無理やり刺青を彫られた
そんな彼女を救い出したのは
夜の繫華街で出合った明良だった

奥多摩のゲストハウス『グリーンゲイブルズ』
そこで美優を待っていたのは
夫婦のような兄妹と頑固な老婆
そして血のつながりのない子供たち

物語の中盤は夫婦のような兄妹
明良と華南子の成長と恋の物語です
惹かれ合い結婚を誓った2人が
実は兄妹だった・・あなたならどうする?
2人が苦悩の末に選んだのは
兄妹として家族となる、だった

明良と華南子が選ぶ家族のカタチは
この物語のキモであると思います
家族は血の繋がりだけではない
愛情と思いやり、それが家族を作る

グリーンゲイブルズで働き
明良と華南子の家族の姿を見るうちに
美優は考えが変わるようになる
大切なのは私がどうしたいかではなく
赤ちゃんにとって何が幸せかということ

そして選んだ美優の選択
自分では育てられない
赤ちゃんを特別養子にする
そう明良と華南子のような
優しい育ての親に託すのだ

産みの親として赤ちゃんを見守る
昼の太陽でなく夜を照らす月のように
美優の現状に即した判断に
彼女の成長を見る事でしょう

過酷な境遇を経験したがゆえ
助け合うことが出来るようになった
人々を丁寧に描いた美しい物語です

作品紹介(出版社より)

女子高生、美優は予期しない妊娠をしてしまう。堕胎するには遅すぎると、福祉の手によって奥多摩にあるゲストハウス「グリーンゲイブルズ」に預けられる。そこには血のつながりよりも深い愛で結ばれた「家族」が暮らしていた。養子縁組、里親制度。小さな命に光を当てる、長編ミステリー

作品データ

タイトル:『月の光の届く距離』
著者:宇佐美まこと
出版社:光文社
発売日:2022/1/18

作家紹介

宇佐美まこと(うさみ・まこと)

1957年愛媛県生まれ。
2006年「るんびにの子供」で第1回「幽」怪談文学賞短編部門を受賞しデビュー。
2017年『愚者の毒』で第70回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門を受賞。
著書に『入らずの森』『角の生えた帽子』『死はすぐそこの影の中』『熟れた月』『骨を弔う』など。

宇佐美まことの作品紹介

『るんびにの子供』(2007/5/1)
『虹色の童話』(2008/6)
『入らずの森』(2009/3)
『愚者の毒』(2016/11)
『角の生えた帽子』(2017/9/22)
『死はすぐそこの影の中』(201/10)
『熟れた月』(2018/2/15)
『骨を弔う』(2018/6/28)
『少女たちは夜歩く』(2018/10)
『聖者が街にやって来た』(2018/12/6)
『恋狂ひ』(2019/3)
『展望塔のラプンツェル』(2019/9/18)
『黒鳥の湖』(2019/12/11)
『ボニン浄土』(2020/6/16)
『夜の声を聴く』(2020/9)
『羊は安らかに草を食み』(2021/1/7)
『子供は怖い夢を見る』(2021/9/29)
月の光の届く距離』(2022/1/18)

PR
カテゴリー:
関連記事