【感想】『ミーツ・ザ・ワールド』金原ひとみ|ぜんぜん違うから一緒にいられる

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『ミーツ・ザ・ワールド』金原ひとみ

ケイチャン

ケイチャン

【2022年21冊目】

今回ご紹介する一冊は、

金原ひとみ 著

『ミーツ・ザ・ワールド』です。

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【感想】「ぜんぜん違うから一緒にいられる」

アニヲタ腐女子の銀行員、由嘉里(ゆかり)と
死にたがりのキャバ譲のライが交差する物語

げっ歯類と深海魚ほど違う2人がルームシェアして生活する
キャバ譲と同棲なんて毎日がパーティーみたいかよと思いきや
ライは『死んでいる状態が普通で今はたまたま生きてしまっている』
と感じている人であった

さすが天才芥川賞作家の金原ひとみ
期待を上回る面白さでした

なんと言ってもエッジの効いた
登場人物たちが素晴らしい

主人公の由嘉里(ゆかり)
30歳を目前にして何となく婚活するも
あえなくコンパで惨敗したあげく
ゲロまみれでライに拾われるという
最悪の登場シーンです

女は結婚しなさい的な空気に押されて
気の進まぬ中の婚活ですから
そりゃ上手くいくはずない
いつまでも2次元のキャラに囲まれて
夢見心地で暮らしていきたい・・

捨て猫を持ち帰るように
由嘉里(ゆかり)を持ち帰ったライ
虚無と言う表現が似合う女性です
突き放すような優しさで
由嘉里を包むかのように拒絶する
それが心地良い・・

「ぜんぜん違うから一緒にいられる」

決して理解出来ない
決して交わることが出来ない
だからこそ心を許して付き合える
そんな2人の生活が始まります

そして2人を囲むキャラ達もよい

破天荒で底抜けにポジティブなホストのアサヒ
この作品でトリックスター的な役割を持つ
愛すべきキャラです

人が死ぬ話ばかりを書く小説家のユキ
最悪を回避する為に家族を捨てるユキの独白は
本作のキモとなります

死にたがりのライを救おうと奮闘する由嘉里
どうにかこの世界の素晴らしさを
生きる喜びを知ってもらいたいと
だから・・ライの元カレを探しにゆく

焼肉擬人化漫画ミート・イズ・マインを愛する由嘉里は
この世界での僕らのアバターとなります
好きなもののために日々働き、推しを押すことに喜びを見出す
そんな自然な気持ちでライを救おうとする

でもそれは届かない思い

アサヒと共に大阪でライの元カレの両親と会い
希望を失って帰る2人・・
そして待っていたのは
ライのいない部屋であった

金原ひとみのもう一つの魅力は会話の描写です
由嘉里とライの弾んでいるようでいて
少し嚙み合っていない会話パートは
ずっと楽しく読める

アサヒとの高速回転するような会話も
ユキとのヒリヒリするようななかで
実は優しさもある会話も
バーのオネエのオシンさんとの
示唆に満ちた会話も
永遠に楽しく読めそうです

作品紹介(出版社より)

焼肉擬人化漫画をこよなく愛する腐女子の由嘉里。
人生二度目の合コン帰り、酔い潰れていた夜の新宿歌舞伎町で、美しいキャバ嬢・ライと出会う。
「私はこの世界から消えなきゃいけない」と語るライ。彼女と一緒に暮らすことになり、由嘉里の世界の新たな扉が開く――。

「どうして婚活なんてするの?」
「だって! 孤独だし、このまま一人で仕事と趣味だけで生きていくなんて憂鬱です。最近母親の結婚しろアピールがウザいし、それに、笑わないで欲しいんですけど、子供だっていつかは欲しいって思ってます」
「仕事と趣味があるのに憂鬱なの? ていうか男で孤独が解消されると思ってんの? なんかあんた恋愛に過度な幻想抱いてない?」
「私は男の人と付き合ったことがないんです」

推しへの愛と三次元の恋。世間の常識を軽やかに飛び越え、幸せを求める気持ちが向かう先は……。
金原ひとみが描く恋愛の新境地。

作品データ

タイトル:『ミーツ・ザ・ワールド』
著者:金原ひとみ
出版社:集英社
発売日:2022/1/5

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作家紹介

金原ひとみ(かねはら・ひとみ)

1983年東京生まれ。
2003年『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞を受賞。
2004年『蛇にピアス』同作で第130回芥川賞を受賞。ベストセラーとなり、各国で翻訳出版されている。
2010年『TRIP TRAP』で第27回織田作之助賞を受賞。
2012年『マザーズ』で第22回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。
2020年『アタラクシア』で第5回渡辺淳一文学賞を受賞。
2021年『アンソーシャル ディスタンス』で第57回谷崎潤一郎賞を受賞。

金原ひとみの作品紹介

『蛇にピアス』(2006/6/28)
『アッシュベイビー 』(2004/4/27)
『AMEBIC』(2005/7/6)
『オートフィクション』(2006/7/5)
『ハイドラ』(2007/4/1)
『星へ落ちる』(2007/12/5)
『マザーズ』(2011/7/1)
『憂鬱たち』(2012/6/8)
『マリアージュ・マリアージュ』(2012/11/1)
『TRIP TRAP トリップ・トラップ』(2013/1/25)
『持たざる者』(2015/4/24)
『軽薄』(2016/2/26)
『クラウドガール』(2017/1/6)
『アタラクシア』(2019/5/24)
ミーツ・ザ・ワールド』(2022/1/5)

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