ケイチャン
【2022年167冊目】
今回ご紹介する一冊は、
谷村志穂 著
『過怠』です。
もくじ
【感想】「満たされない気持ちを抱える辛さ」
母との関係に溝がある・・
医学生の奈々子は幼い頃から
甘えさせてくれない母を諦め
そのためか他人に殻を作っていた
そこに現れたのが韓国から来た
天真爛漫な留学生のジヒョンです
母国の母や姉とカカオトークで
日常的にやりとりするゼロ距離の
関係を眩しい思いで見つめるのでした
そんな時に奈々子は衝撃の事実に気が付く
父母との血液型が合わないのだ
恐れる気持ちを
真実を知りたい思いが上回り
自らDNA検査をする奈々子
その結果は・・やはり他人だったか!
母が冷たいのは
自分が実子でないからなのか?
しかしDNA検査結果に驚愕するのは
母も同じでした
ああ、母はわざと冷たくしていたのではない
母はこういう人なのだ
そして奈々子は実の父と母に
会いに韓国へ行く
そこで自分そっくりの母が
似ていない娘と心から寄り添う姿を見て思う
この家族に一点の曇りもない・・と
受精卵の取り違えから
起こったこの悲劇
しかしこれは悲劇だったのか?
最終章で明かされる
取り違え真相に僕は
それは仕方ないなあ!と
思ってしまいました
体外受精した医師の高山
ふっとした気の緩みか
2つの受精卵がどちらのものか
分からなくなってしまった
普通ならばここで受精卵を破棄し
もう1度やり直せばよいのだが
高山にはそれが出来なかったのです
活発に動く美しい受精卵
そこにはもう命が宿っている
これを殺すことなんて出来ない!
ここで高山は窮余の選択をする
2分の1の確率に賭けて
えいやっと母のお腹に
それぞれ戻すのでした
取り違えの危険よりも
新しい命を選択したのです
結果は間違えちゃう訳ですが
まあ仕方ないということなのです
いったいどうすれば良かったのか?
奈々子は自問自答します
やり直したならば自分は産まれて来なかった
あらゆる割り切れなさを飲み込んで
産まれてきたことに感謝しよう・・と
自分のルーツをたどり直すことで
自らのアイデンティティーを取り戻す
再生の物語でした
どんなに医療が進歩したって
ケアレスミスは絶対に起こる
その時あなたは
飲み込むことが出来ますか?
作品紹介(出版社より)
満たされなくていいんだ。
そんな想いの中で、出会ったり別れたりするのが、きっとこれから生きていくということ。日本と韓国のふたつの家族。その時どうしても子を欲しいと願い、切なる思いで飛びついた医療があった。
衝撃的な結末に心が震え涙があふれる著者最高傑作!
これは誰にも起きる物語。
作品データ
タイトル:『過怠』
著者:谷村志穂
出版社:光文社
発売日:2022/10/19
作家紹介
谷村志穂(たにむら・しほ)
1962年、札幌市生れ。北海道大学農学部で動物生態学を専攻。
1990年、ノンフィクション『結婚しないかもしれない症候群』で、女性を中心に大きな支持を集める。
1991年、『アクアリウムの鯨』を発表し、小説家としてデビュー。
2003年、『海猫』で島清恋愛文学賞を受賞。
『十四歳のエンゲージ』『シュークリアの海』『アイ・アム・ア・ウーマン』『黒い天使になりたい』『余命』『黒髪』『雪になる』『みにくいあひる』『スノーホワイト』『冷えた月』『いそぶえ』『ボルケイノ・ホテル』『大沼ワルツ』『移植医たち』『セバット・ソング』などの作品がある。
谷村志穂の作品紹介
『結婚しないかもしれない症候群』(1992/09/01)
『十四歳のエンゲージ』(1995/04/01)
『アクアリウムの鯨』( 1995/09/01)
『シュークリアの海』(2002/08/20)
『海猫(上)』(2004/08/28)
『海猫(下)』(2004/08/28)
『アイ・アム・ア・ウーマン』(2005/04/01)
『余命』( 2008/11/27)
『黒い天使になりたい』(2009/04/03)
『冷えた月 』(2009/09/29)
『黒髪』(2010/09/15)
『雪になる』(2010/12/24)
『みにくいあひる』(2011/04/08)
『スノーホワイト』(2011/12/08)
『いそぶえ』(2014/8/20)
『ボルケイノ・ホテル』(2017/5/11)
『大沼ワルツ』(2019/11/06)
『移植医たち』(2020/02/26)
『セバット・ソング』(2022/11/05)
『過怠』(2022/10/19)
・・・など多数