【感想】『帰りたい』カミーラ・シャムジー|愛なき政策が悲劇を呼ぶ

402 views
帰りたい|カミーラ・シャムジー

ケイチャン

ケイチャン

【2022年100冊目】

記念すべき100冊目にご紹介する一冊は、

カミーラ・シャムジー 著

『帰りたい』です。

PR

【感想】「愛なき政策が悲劇を呼ぶ」

イギリス現代文学

ギリシャ悲劇『アンティゴネー』を下書きにしていますが
まさに圧倒的としか言いようのない
悲劇的なラストシーンが凄まじい!

舞台はイギリスのロンドン
時代は過激派組織IS(イスラム国)が国家を樹立させた頃
パキスタン系イギリス市民の家族を描いた物語です

ジハード戦士であった父に憧れて
息子はISの首都ラッカへと旅立つ
自らのアイデンティティと居場所を求めるために

物語は魅力的な美しい姉妹のイスマとアニーカ
そしてISにスカウトされイスラムの戦士となった
アニーカの双子の弟のパーウェイズを中心にして
イギリスでのイスラム系住民の姿が語られます

「愛なき政策が悲劇を呼ぶ」

このイスマ一家に関係していくのが
英国内務大臣のカラマットと
その息子のエイモンです

アニーカと恋に落ちるエイモン
だが内務大臣の息子が
ジハード戦士の姉と
結ばれることが許されるわけない

いっぽうイスラム国で活動するパーウェイズですが
しょせんシティボーイのロンドンっ子
ISの血生臭い蛮行と非理論的な原理主義に
早々にドロップアウトする
家に帰りたい・・

弟を帰国させるために奮闘する姉妹
しかし、間に合わなかった・・
過激派組織に加わるという安易な行動の代償は
あまりにも高くついたのです

弟の帰国を実現させるため
『正義をなすため』に
パキスタンのカラチへ行くアニーカ

炎天下の緑あふれる公園
氷のひつぎに佇む
純白のドレスの女
強烈に視覚的に訴える舞台で
圧巻のフィナーレを迎える・・

5人の登場人物の目線で語られる
現代のイギリスの様子が痛ましい
政治・経済・宗教的に分断されて
対立しています

もう1つのテーマが家族です
それぞれの想いで家族の為とした行いが
悲劇的な結末を迎えてしまう
いったいどうすれば良かったのか?
明確な答えなど、ありません

また姉イスマの部屋で見た写真の
アニーカに恋するエイモンですが
自分に好意を寄せる女性の妹に
恋をするというこの不条理さ
恋愛小説としても一級品です

自分の想いと
家族を大切に思う心
そして恋
不条理な世界を精いっぱい生きる
人間たちの姿が胸に迫る物語でした

作品紹介(出版社より)

ブッカー賞最終候補、女性小説賞受賞作!

イスマ、アニーカ、パーヴェイズは、ロンドンで暮らすムスリム(イスラム教徒)の三人きょうだい。イスマは長女、下の二人は双子の姉弟。パキスタン系英国人の父親はイスマが幼い頃に家族を捨て、ジハードのためにボスニアに旅立ち、グアンタナモ収容所への搬送途中で病死した。3人に父親の記憶はほとんどない。母親も7年前に死んだ。長女のイスマは妹と弟を育てるために学業を中断して働いた。妹のアニーカは高校卒業後、奨学金を得て大学に。弟のパーヴェイズは音響関係のキャリアを目指す。イスマは渡米し、研究助手として大学院で勉強を続ける。そんなある日イスマは、カフェでエイモンという青年に出会う。エイモンもロンドン育ちだが、パキスタン系の父親は英国の国会議員で裕福な家庭だった。ロンドンに戻ったエイモンは、イスマの妹アニーカに会い、強く惹かれる。
一方、ロンドンに残ったパーヴェイズはパキスタンの親戚に会いにいくと嘘をつき、旅に出た。行き先は、シリアのラッカ。ジハード戦士だった父に憧れ、イスラム国に参加していたのだ。
イスマ、アニーカ、エイモンはそれぞれに悩みながらも、信念を貫き、あらゆる手段でパーヴェイズを救い出そうとするが、内務大臣となったエイモンの父やMI5(情報局保安部)の監視、国籍の問題など様々な壁が立ちはだかる……。
登場人物の各視点による五章で構成され、物語はヒースロー空港に始まり、マサチューセッツ、ロンドン、ラッカ、イスタンブールへと舞台を移しながら、スリリングに展開し、パキスタンの都市・カラチで衝撃の結末を迎える。ギリシャ悲劇『アンティゴネー』に着想を得て、家族の絆と国家の法律の対立を描き、国籍・国境のあやうさを訴えかける傑作長篇。英米各紙で「ブック・オブ・ザ・イヤー」に輝き、BBCが選ぶ「わたしたちの世界をつくった小説ベスト100」(過去300年に書かれた英語の小説が対象)の政治・権力・抗議活動部門で10作品に選ばれた。
また、ムスリムの人が西欧社会で生きていく上での多様な生きづらさが具体的に描かれ、登場人物それぞれの視点で実感できることも本書の大きな魅力となっている。

作品データ

タイトル:『帰りたい』
著者:カミーラ・シャムジー
出版社:白水社
発売日:2022/06/27

作家紹介

カミーラ・シャムジー  Kamila Shamsie

1973年、パキスタンのカラチ生まれ。
米国ハミルトン大学創作科卒業後、マサチューセッツ州立大学アマースト校でファインアート修士号を取得。
1998年に In The City by the Sea で作家デビュー。
2007年、英国に移住。13年に英国籍を取得。アイデンティティの問題に悩むマイノリティの主人公、というテーマで国際色豊かな作品を書き続ける。
2017年『帰りたい』でブッカー賞最終候補、2018年の女性小説賞を受賞。本邦初訳。
BBCが選ぶ『わたしたちの世界をつくった小説ベスト100』の政治・権力・抗議活動部門で10作品のひとつに選ばれた(対象は過去300年間に書かれた英語の小説)。「ガーディアン」「ニューヨーク・タイムズ」「オブザーバー」「テレグラフ」など各紙で〈ブック・オブ・ザ・イヤー〉を獲得した。

カミーラ・シャムジー の作品紹介

帰りたい』(2022/06/27)

関連記事