【感想】『タラント』角田光代|知ることは良いことではないの?

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タラント|角田光代

ケイチャン

ケイチャン

【2022年101冊目】

今回ご紹介する一冊は、

角田光代 著

『タラント』です。

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【感想】「知ることは良いことではないの?」

僕達は何に負け続けているんだろう?
香川県のうどん屋3代の人物にスポットを当てて
挫折の意味を探る

長編現代小説です

太平洋戦争で片足を失い
生きる心を折られて
以降何もしなかった祖父の清美
『見るだけ』を言う言葉が悲しい

学生時代の友人を不慮の事故で失い
熱心にボランティア活動に打ち込んだ意義を
見失ってしまった主人公の、みのり

不登校になった甥の、陸

3世代の視点から
現代の諸問題を取り上げていきますが
僕は主人公みのりのボランティアについて
書きたいと思います

「知ることは良いことではないの?」

地元香川を離れ、東京の大学に進学したみのり
ボランティアサークルに入って
いままで知らなかった社会問題を知り
若き正義感に火が付きます

学校建設のボランティアでネパールに行った経験が
将来を大きく左右しました

僕も大学生のころにネパールに行きました
アンナプルナの山々をトレッキングした時
可憐な少女に花を貰って、感激していたら
サムシングスイートと言われて
驚いたのを覚えています

社会人になってからもボランティア関連で
ヨルダンのパレスチナ人避難キャンプへ行く、みのり
ここで彼女は2人の少年のキャンプ脱出の片棒を担ぐことになります

あの2人が少年兵にされてしまっていたら・・
激しく後悔する、みのり

好意には、好意で
善意には、善意で
日本的な感覚でそう信じていた、みのり
しかしそれは一方的な思い込み
人にはそれぞれ思惑があり
受け取る感情も、人それぞれ
どう思い何を返してくるかは、分からないもの
ましてや相手は戦地から逃げてきた人々です
彼らの気持ちが想像つくはずない

それは日本でも同じこと
東日本大震災のボランティア活動を
偽善と指摘されて愕然とする、みのり
激しいショックを受けるのです

ここでも私達はボランティアに来たんだから
ありがたいと思われて当然という思い込みがあります

行動的だが繊細で相手の言動に左右されやすい、みのり
それは現代の多数の人々を表すアバターのようです

そもそもこんな問題を知らなければ良かったのではないか?
地元の狭い社会にすっぽりハマり、そこから動かなければ
こんな思いも知らずに済んだのではないのか?
そう自問します

確かにその通りかも知れません
守られた世界にずっといて
何も知らずどこにも動かなければ
傷つくことも少なくなる

しかしそれは知らない世界と出会い
心をふるわす経験をしないということ
それを知らず人生を終えるなんて
つまらないのではないでしょうか

物語の終わりにかけて
祖父清美の知らざれる経歴にふれ
新しい一歩を踏み出す気持ちになる、みのり
他人に左右されない
自分だけの人生を
僕も生きていきたいと、そう思いました

さて僕には香川に親友がいるのですが
彼の家を訪れた時、製麵所の隣にある
掘っ立て小屋のような(失礼)
うどん屋さんに連れて行ってもらいました

そこの、うどんの美味しかったこと!

香川県のうどんには
びっくりさせられますよ

作品紹介(出版社より)

片足の祖父、不登校に陥る甥、〝正義感〟で過ちを犯したみのり。心に深傷を負い、あきらめた人生に使命―タラント―が宿る。著者五年ぶり、慟哭の長篇小説

作品データ

タイトル:『タラント』
著者:角田光代
出版社:中央公論新社
発売日:2022/2/21

作家紹介

角田 光代(かくた みつよ)

1967年神奈川県生れ。魚座。早稲田大学第一文学部卒業。
1990年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。
1996年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞受賞。
2003年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、2005年『対岸の彼女』で直木賞受賞。
2006年「ロック母」で川端康成文学賞受賞。
2007年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞受賞。
2011年『ツリーハウス』で伊藤整文学賞受賞。
2012年『紙の月』で柴田錬三郎賞、『かなたの子』で泉鏡花文学賞受賞。
2014年『私のなかの彼女』で河合隼雄物語賞を受賞。
著書に『キッドナップ・ツアー』『愛がなんだ』『さがしもの』『くまちゃん』『空の拳』『平凡』『笹の舟で海をわたる』『坂の途中の家』など多数。

角田 光代の作品紹介

幸福な遊戯(1991年9月)
ピンク・バス(1993年8月)
学校の青空(1995年10月)
まどろむ夜のUFO(1996年1月)
ぼくはきみのおにいさん(1996年10月)
ぼくとネモ号と彼女たち(1997年9月)
夜かかる虹(1998年1月)
キッドナップ・ツアー(1998年11月)
みどりの月(1998年11月)
東京ゲスト・ハウス(1999年10月)
真昼の花(2000年1月)
菊葉荘の幽霊たち(2000年4月)
あしたはうんと遠くへいこう(2001年9月)
だれかのいとしいひと(2002年4月)
エコノミカル・パレス(2002年10月)
空中庭園(2002年11月)
銀の鍵(2003年3月)
愛がなんだ(2003年3月)
ちいさな幸福(2004年2月)
トリップ(2004年2月)
太陽と毒ぐも(2004年5月)
庭の桜、隣の犬(2004年9月)
対岸の彼女(2004年11月)
人生ベストテン(2005年3月)
さがしもの(2005年5月)
Presents(2005年11月)
おやすみ、こわい夢を見ないように(2006年1月)
ドラママチ(2006年6月)
夜をゆく飛行機(2006年7月)
彼女のこんだて帖(2006年9月)
12星座の恋物語(2006年10月)
薄闇シルエット(2006年11月)
八日目の蝉(2007年3月)
ロック母(2007年6月)
予定日はジミー・ペイジ(2007年9月)
三面記事小説(2007年9月)
マザコン(2007年11月)
福袋(2008年2月)
三月の招待状(2008年9月)
森に眠る魚(2008年12月)
くまちゃん(2009年3月)
ひそやかな花園(2010年7月)
なくしたものたちの国(2010年9月)
ツリーハウス(2010年10月)
かなたの子(2011年12月)
曾根崎心中(2012年1月)
口紅のとき(2012年1月)
紙の月(2012年3月)
それもまたちいさな光(2012年5月)
月と雷(2012年7月)
空の拳(2012年10月)
私のなかの彼女(2013年11月)
平凡(2014年5月)
笹の舟で海をわたる(2014年9月)
おまえじゃなきゃだめなんだ(2015年1月)
坂の途中の家(2016年1月)
拳の先(2016年3月)
源氏物語 上(2017年9月)
私はあなたの記憶のなかに(2018年3月)
源氏物語 中(2018年11月)
源氏物語 下(2020年2月)
銀の夜(2020年11月)
タラント(2022年2月)

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