【感想】『水底のスピカ』乾ルカ|何者でもない自分が許せないの

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水底のスピカ |乾ルカ

ケイチャン

ケイチャン

今回ご紹介する一冊は、

乾ルカ 
水底のスピカです。

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【感想】「何者でもない自分が許せないの」

水の底にたゆたう乙女を連想する
物悲しくも美しいイメージのタイトルが
目を引く青春群像小説です

おとめ座の1等星スピカ
春の淡い夜空に青く輝くこの星が
5連星であることを知っていますか?
それぞれが光っているのに
1つの星に見えているなんて
遠くから見ているとわからないものですね

高校生活の友達は生存戦略の
戦友である

高校2年生の2学期に東京から
転校してきた来た美少女は
静止した水面に投げ込まれた
石ころのようだった

美しい容姿と声、そして気高く孤高
すでに固定したクラス女子のヒエラルキーに
大きな波紋をもたらし
反発を呼ぶ

物語はあるきっかけを境にして
反発していた者たちが
引力に引かれるように
惹かれ合い近づいてゆく
過程が描かれていきます

そして集う5人の男女のグループ

「何者でもない自分が許せないの」

スピカは5連星ですが星たちは
均等に光っているのではない
巨大に光る2つの主星と
暗い3つの傍星とに分かれる
私は傍星の立場に甘んじなければいけないの?

けれども傍から見れば輝く人にも
その内面では深く暗い悩みがあった
私は神様の見張り番をしているの・・
この謎の言葉に秘められた想いとは
なに?

思春期特有の過剰な自意識ゆえ
触れられたくないのに
温もりだけは欲しいという
相反する心持はみなさんにも
経験があるのではないでしょうか

人の心は見通せないもの
水面で揺れる星の光のように
頼りなく不確かなものです
けど、知りたいんだ
それが友達ってもんだろ?

自分の自意識を認めて
相手との比べ合いに
折り合いをつけてゆく
そんな成長の物語でした

あなたもきっと
あの時に一緒に輝いた
友達を思い出すことでしょう

作品紹介(出版社より)

その転校生は、クラス全員を圧倒し、敗北させた――

夏休み明け、北海道立白麗高校2年8組に、東京からひとりの転校生がやって来た。汐谷美令――容姿端麗にして頭脳明晰。完璧な彼女は学校中から注目を集めるが、些細な事からクラスで浮いた存在になってしまう……。学校祭準備で美令と友人となった、クラスで孤高を演じる松島和奈。そして美令が孤立する原因を作ってしまった、クラスのカースト上位である城之内更紗もまた、美令、和奈と深く関わってゆく。それぞれ秘密を抱える三人が向かう先に待つものは、そして美令の「私、神様の見張り番をしているの」という言葉の意味とは……。今、彼女たちの人生で、もっとも濃密な一年が始まった――。

今、私ひとりでないことが、奇跡なのだ

「おまえなんかに会いたくない」の著者がおくる青春群像劇の傑作

作品データ

タイトル:『水底のスピカ』
著者:乾ルカ
出版社:中央公論新社
発売日 : 2022/10/7

作家紹介

乾ルカ(いぬい・るか)

1970年、北海道札幌市生まれ。藤女子短期大学卒業後、銀行員、官公庁臨時職員などを経て、
2006年「夏光」でオール讀物新人賞を受賞、デビュー。
2010年『あの日にかえりたい』が直木三十五賞候補、『メダル』が大藪春彦賞候補に。
その他の著作に『てふてふ荘へようこそ』『蜜姫村』『六月の輝き』『願いながら、祈りながら』など。好きな作家は筒井康隆、宮部みゆき、重松清、大槻ケンヂ。座右の書は美内すずえ『ガラスの仮面』、理想の女性は同書の登場人物である姫川亜弓。

乾ルカの作品紹介

『夏光』(2007年9月)
『プロメテウスの涙』(2009年4月)
『メグル』(2010年2月)
『あの日にかえりたい』(2010年5月)
『蜜姫村』(2010年10月)
『六月の輝き』(2011年1月)
『てふてふ荘へようこそ』(2011年5月)
『君の波が聞こえる』(2011年7月)
『ばくりや』(2011年10月)
『たったひとり』(2013年1月)
『向かい風で飛べ!』(2013年12月)
『願いながら、祈りながら』(2014年3月)
『モノクローム』(2014年6月)
『青い花は未来で眠る(11月のジュリエット)』(2014年10月)
『森に願いを』(2015年2月)
『ミツハの一族』(2015年4月)
『奇縁七景』(2015年7月)
『花が咲くとき』(2016年3月)
『わたしの忘れ物』(2018年3月)
『カレーなる逆襲!– ポンコツ部員のスパイス戦記』(2018年7月)
『心音』(2019年4月)
『コイコワレ』(2019年6月)
『明日の僕に風が吹く』(2019年9月)
『龍神の子どもたち』(2020年10月)
『おまえなんかに会いたくない』(2021年9月)
『水底のスピカ』(2022年10月)

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