【感想】『先祖探偵』新川帆立|持てる人は、持たない人の苦しみを知らない

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先祖探偵|新川帆立

ケイチャン

ケイチャン

【2022年147冊目】

今回ご紹介する一冊は、

新川帆立 著

『先祖探偵』です。

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【感想】「持てる人は、持たない人の苦しみを知らない」

あなたのご先祖様をお探しします!
そんな一風変わった探偵物語です

立派なご先祖様を探して自慢したい!
そんなアナタの望みをお助けするのが
祖先調査専門の探偵・風子(ふうこ)です
しかし実は彼女がいちばん
先祖を欲していたのです

捨て子だった風子
苗字は拾われた街の名前
本名は忘れてしまい
父は知らず
母はうっすらとした記憶の彼方・・

そんな風子が生業とするのが祖先の調査です
様々な人が様々な理由で祖先を探す
そこには人それぞれのドラマがあり
一族が辿ってきた歴史がありました

さすが元弁護士の新川帆立
弁護士、公正取引委員会と
専門職のお仕事小説を描いていますが
今回も目の付け所が良いですね

丹念に書かれる調査過程も
興味深く読み進められます
そして出張先で味わう
ご当地グルメがとても美味しそう

しかし気になるのが
捨て子ゆえ根無し草のように
ふっと心を彷徨わせる風子の心情
私は人の祖先を探すよりも
実の父母を探す必要があるんじゃないか?

「持てる人は、持たない人の苦しみを知らない」

その機会はあちらからやって来た
探偵を雇って風子を探す人がいたのだ
そして風子は父母の来歴を知り
捨てられた意味を悟るのでした

それは戸籍問題でした
共に無戸籍であった両親は
ハンディを負った人生を歩みました
この辛さを子供に味わいさせたくはない

そして選んだ手段が
『捨て子』でした
棄子は手厚く保護される
なにより戸籍が取得されるのです

しかし涙する風子
無戸籍でもいいから母と暮らしたかった・・
でもそれは戸籍を持つ風子だから思えること
無戸籍であった母の苦悩を思い
風子はさらに涙するのでした

自分のルーツを探す旅に
いったん決着をつけた風子
そして僕は思うのです
自分のルーツを探す必要がない僕は
とても幸せなことであると

僕も持たざる者の悩みを想像して
寄り添いたいものです

作品紹介(出版社より)

ひとりでも寂しくない。 私はもっと、強くなれる――。 「あなたのご先祖様を調査いたします」 風子は、母と生き別れてから20年以上、 野良猫のように暮らしてきた。 東京は谷中銀座の路地裏で、探偵事務所を ひらいている。 「曾祖父を探してください」「先祖の霊のたたりか もしれないので、調べて」など 様々な、先祖の調査依頼が舞い込む。 宮崎、岩手、沖縄…… 調査に赴いた旅先で美味しい料理を楽しみながら、 マイペースで仕事をしている風子。 いつか、自らの母を探したいと思いながら―― 大人気作家による「探偵小説」の傑作が、ここに誕生。

作品データ

タイトル:『先祖探偵』
著者:新川帆立
出版社:角川春樹事務所
発売日:2022/7/15

作家紹介

新川 帆立(しんかわ・ほたて)

1991年 アメリカ・テキサス州 生まれ。日本のミステリー作家、弁護士。 元プロ雀士。
2021年1月より弁護士を休職し、作家業に専念している。 ボストンを経てシカゴ在住。
2020年10月『元彼の遺言状』で宝島社主催第19回『このミステリーがすごい!』大賞受賞。
2021年『元彼の遺言状』でデビュー

新川帆立の作品紹介

元彼の遺言状』(2021/1/8)
倒産続きの彼女』(2021/10/6)
競争の番人』(2022/5/11)
『剣持麗子のワンナイト推理』(2022/04/08)
先祖探偵』(2022/7/15)

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