『貝殻航路』久栖博季 あらすじと感想|霧の中の居心地良さ


【2026年64冊目】
今回ご紹介する一冊は、
久栖博季 著
『貝殻航路』です。
北海道の歴史や風土に関心がある人
あらすじと感想
霧煙るこの街で、私は忘れられたまま生きる
夫が長期不在の女性を描く、北の国の物語です
静かに湛えるのは、諦念か怒りか・・
一人暮らす家の中でポツンと、夫の不在に耐える『わたし』こと凪(なぎ)さん
嘆くでもなく怒るでもなく、静かに暮らしている
動物園に行こうよ
そう誘い出してくれるのが、夫の妹の夕希音(ゆきね)ちゃんです
けど亡くなった動物に献花したいと言う彼女も、どこか寂しそうなんだ
北海道の釧路で生きる凪の生きざまは、霧深いこの街のように、寂しさに満ちているんだ
とにかく『寂しい』気配に満ち満ちた本作
『幸せ』という船が霧笛を鳴らし出航していくのを、ただ見送るような毎日です
北の大地が主人公
「わたし」以上に存在感を放つのが、北海道という北の大地です
霧煙る広大な釧路市、ロシアの占領下にある北方領土などが
さらに『寂しさ』を深める舞台装置となっています
さて中盤で凪と父親の確執が書かれたのち、終盤でその父親が死にます
父親の葬儀に向かう凪はひとりきりです
やはり夫はいない
葬儀もせず火葬に付す、骨壺を抱えたまま
凪は貝殻島が見える岬から、かつて実家のあった場所に行く
更地になった実家跡で、思い出を振り返りながら物語は終わります
どこにも行けず、変わろうとしない凪をどう思えばいいのか・・
圧倒的な寂寥感があるお話でした

あなたは故郷で暮らしていますか?
作品紹介(出版社より)
霧深い道東の街で淡く光を放つ希望の航路
北方領土を間近に望む土地に生まれ、漁師の父に育てられた主人公は、アイヌにルーツを持つ夫と結婚し釧路の街に移り住む。
アラスカからの豪華客船が釧路に寄港するというニュースの一方で、ミュージシャンの夫は行き先も告げずに家を出た。
倦んだ孤独をひとり抱えるわたしは、幼いころに父と見た貝殻島のことを思い出す。
「カイカライ。波の上面低いもの、という意味で、満潮になれば水没してしまうちっぽけな島だよ、日本では貝殻島、カイカライはアイヌ語ね」
北方領土という戦後史にひっそり佇む貝殻島の灯台、かつて海上の国境を越えロシア船に拿捕された父、静かに民族の記憶をつなぐ夫とその妹――いくつものかすかな光が敷きつめられた貝殻島への航路とは。
北海道東部、道東と呼ばれる土地の風土を細やかに描き、そこに暮らす人間の内奥に迫る野心作。
選考委員から高い評価を得た第174回芥川賞候補作。
作品データ
タイトル:『貝殻航路』
著者:久栖博季
出版社:文藝春秋
発売日:2026/3/12
作家紹介
久栖博季(くず・ひろき)
1987年、北海道生まれ。弘前大学人文学部卒業。同大学院修士課程中退。
2021年、「彫刻の感想」で第五十三回新潮新人賞受賞。
2023年発表の「ウミガメを砕く」で第三十七回三島由紀夫賞候補。
久栖博季の作品紹介
『彫刻の感想』
『ウミガメを砕く』2024/9/26
『貝殻航路』2026/3/12


