【感想】『家庭用安心坑夫』小砂川チト|テーマパークのマネキン人形がお父さんなの?

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家庭用安心坑夫|小砂川チト

ケイチャン

ケイチャン

【2022年111冊目】

今回ご紹介する一冊は、

小砂川チト 著

『家庭用安心坑夫』です。

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【感想】「テーマパークのマネキン人形がお父さんなの?」

第167回芥川賞候補作

お父さんはマネキン人形?
現実と虚妄の境界線を彷徨うような
紙一重の物語です

冒頭にけろけろけろっぴのシールが出てきます
実家に貼ってあるはずのシールが
なぜ日本橋の三越デパートにあるの?
なんでなんで??

結局顛末が明かされないこのけろっぴシールに
何が現実で何が夢幻なのか分からない
この物語の本質が現れています

「テーマパークのマネキン人形がお父さんなの?」

炭鉱を舞台としたテーマパークの
地底奥に設置された坑夫のマネキン人形が
パパだよって言われて育ったのが
主人公の小波(さなみ)さん

マネキン人形が父って、もうおかしい

専業主婦の小波さん
テレワークで働く旦那さんがいますが
しっくりとしていない関係のようです
シングルマザーの亡くなった母との関係も
あまり良くありませんでした

そのマネキンの父が東京まで小波に会いに来た

しかし小波が父を拒絶すると・・消えてしまった

追われれば逃げるのだが
居なくなったら寂しくなる

失った父を手に入れるため
小波がとった行動とは・・
テーマパークから
マネキン人形を強奪することだった

ここからのストーリーが浮き沈み激しくて
僕好みなのです

マネキン人形を奪う計画にハイになり
脳内麻薬が出まくりな小波ちゃん
ハイテンションのまま
地底から父を奪還します

手に入れたとたん
要らなくなっちゃったのでした笑
そして自分にかかっていた
夢の魔術が切れてしまったことに気がつく
もう現実しか残っていない・・と

マネキン人形の父はいろいろな解釈が出来ますが
僕は理想と不条理を表しているように思いました
無機質な人形に、人の暖かさを求める
そんな在り得ないことをしてしまう愚かな小波に
少し共感してしまいました

作品紹介(出版社より)

夫との平穏にみえる家庭に漠然とした不安を抱えた専業主婦小波が、ある日、日本橋三越の柱に、幼いころ実家に貼ったはずのシールがあるのを見つけたところから物語は始まる。小波はいまも実在する廃坑テーマパークに置かれた、坑夫姿のマネキン人形があなたの父親だと母に言い聞かされ育つが、やがて東京で結婚した彼女の日常とその生活圏いたるところに、その父ツトムが姿を現すようになって……。
現実・日常と幻想・狂気が互いに浸蝕し合いながら、人間の根源的恐怖に迫っていく作品。想像力と自己対話によって状況を切り抜け成長していく主人公は不可思議で滑稽な言動と行動に及ぶが、それがかえって小説としての強度となり、ある種のユーモアを孕みながら読む者を惹き込み、我々を思ってもみなかったような想定外の領域へと運んでいく。
誌上発表後、新聞各紙絶賛、話題沸騰! 第167回芥川賞候補作となる。
第65回群像新人文学賞受賞!

作品データ

タイトル:『家庭用安心坑夫』
著者:小砂川チト
出版社:講談社
発売日:2022/7/11

作家紹介

小砂川チト(こさがわ・ちと)

1990年岩手県生まれ。慶応義塾大学文学部卒業、同大学院社会学研究科心理学専攻修了。
2022年、「家庭用安心坑夫」で第65回群像新人文学賞を受賞。同作が第167回芥川賞候補作となる。

小砂川チトの作品紹介

家庭用安心坑夫』2022/7/11

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