ケイチャン
【2023年89冊目】
今回ご紹介する一冊は、
柚木麻子 著
『オール・ノット』です。
もくじ
【感想】「正しく失敗する人生」
ギリギリの生活を余儀なくされる
苦学生の真央ちゃん
厳しい令和時代では
1度の失敗が命取りになるんだ・・
でも同じ貧乏人のはずなのに
不思議に軽やかに生きる
あの人は何者なの?
世代を超えて紡がれる
女性の生きる物語です
借金300万円からスタートする社会人
毎日を喘ぐように暮らす真央ちゃん
学費は奨学金、生活費はバイト代
親からの援助は0円です
多額の借金を背負って始まる予定の
社会人生活の運命が重くのしかかる
そんな時にバイト先のスーパーで出会った
試食販売員の四葉(よつば)さん
試食品を勝手にアレンジして売りまくり
本格的なスコーンとか作ってくれるのだ
まるでひと昔前の貴族のよう
そんな彼女と仲良くなり
有形無形の援助を受ける真央ちゃん
とうとう四葉さん秘蔵の
宝箱まで貰ってしまう
いったい彼女は何者なのか?
そして語られるのは
横浜で貴族のように暮らしてた
四葉さんの過去です
立身出世を成し遂げた祖父と
祖母、母、四葉さんの
女3世代の物語です
眠れない夜の呪い
祖母、母、四葉さんに共通するのが
不眠症です
僕にはそれが何不自由ない
豊かな暮らしへの呵責のように感じました
だが四葉さんは
そんな豊かな暮らしを捨ててまで
自分が正しと思うことを成す
たとえそれで失敗して
全てを失うことになるとしても
様々なタイプの
女性の生きざまを描いた本作
貴族のようなかつての四葉さんの暮らしと
現在と未来の貧しい真央ちゃんとの暮らしが
好対照です
まるでバブル期と現代のように
そして失敗し全てを失ってもなお
軽やかに生きる四葉さん
彼女にとって豊かか貧乏かは問題でなく
どのように生きるかが
大切だったのでしょう
真央ちゃんに宝箱を渡して
四葉さんは安眠を得たように
僕は思いました
そして世代は巡り
真央ちゃんが真珠の首飾り
オール・ノットを手放した時
代わりに
四葉さんの想いを手に入れたんだと
そう感じました
童話のように
寓話に富むこの物語
厳しい世情の現代に警鐘を鳴らしつつも
希望を失わないで欲しいという
メッセージを放つようでした
作品紹介(出版社より)
友達もいない、恋人もいない、将来の希望なんてもっとない。
貧困にあえぐ苦学生の真央が出会ったのは、かつて栄華を誇った山戸家の生き残り・四葉。
「ちゃんとした人にはたった一回の失敗も許されないなんて、そんなのおかしい」
彼女に託された一つの宝石箱が、真央の人生を変えていく。今度の柚木麻子は何か違う。
これがシスターフッドの新しい現在地!
作品データ
タイトル:『オール・ノット』
著者:柚木麻子
出版社:講談社
発売日:2023/4/19
作家紹介
柚木麻子(ユヅキ・アサコ)
1981年東京生まれ。
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、2010年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。
2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。
ほかの作品に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『本屋さんのダイアナ』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『ついでにジェントルメン』などがある。
柚木麻子の作品紹介
『終点のあの子』(2010年5月)
『あまからカルテット』(2011年10月)
『嘆きの美女』(2011年12月)
『けむたい後輩』(2012年2月)
『早稲女、女、男』(2012年7月)
『私にふさわしいホテル』(2012年10月)
『王妃の帰還』(2013年1月)
『ランチのアッコちゃん』(2013年4月)
『伊藤くんA to E』(2013年9月)
『その手をにぎりたい』(2014年1月)
『本屋さんのダイアナ』(2014年4月)
『ねじまき片想い』(2014年8月
『3時のアッコちゃん』(2014年10月)
『ナイルパーチの女子会』(2015年3月)
『幹事のアッコちゃん』(2016年2月)
『奥様はクレイジーフルーツ』(2016年5月)
『BUTTER』(2017年4月)
『さらさら流る』(2017年8月)
『踊る彼女のシルエット』(2018年4月)
『マジカルグランマ』(2019年4月)
『らんたん』(2021年10月)
『ついでにジェントルメン』(2022年4月)
『オール・ノット』(2023年4月)