【感想】『ハンチバック』市川沙央|生と性への希望が、捨てられない

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ハンチバック |市川沙央

ケイチャン

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【2023年103冊目】

今回ご紹介する一冊は、

市川沙央 著

『ハンチバック』です。

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【感想】「生と性への希望が、捨てられない」

第169回、芥川賞受賞作

この壊れた体で生きている
私を正視してみろよ!
凄まじいハンディキャップを負ってなお
生きる喜びを望む
障碍者の文学です

中学生で普通の生活を失う

アラサーの井沢釈華(しゃか)さん
小学生の時に
難病ミオチュブラー・ミオパチーを発症し
中学で通学を断念
以後、人生の大半を車いすで過ごしています

語られる症状が、辛すぎるんだ・・
筋力低下により身体は
骨と皮の状態
湾曲した背骨が肺を圧迫し
喉に呼吸器用の穴を開けている

幸運だったのは、親が金持ちだったこと

親が残した遺産が
グループホーム『イングルサイド』です
赤毛のアンの物語から選んだこの名前が
釈華さんのはかない望みを表しているようです

その望みとは?

『妊娠して中絶してみたい』
という性的なことでした
え、障碍者はお上品にしとけって?
私にだって性欲は、あるんだよッ!

「生と性への希望が、捨てられない」

釈華さんのもう1人の姿
それがエロ系文筆者の紗花(しゃか)です
わいせつな記事を妄想で書き
生まれ変わったら、高級娼婦になりたい
とツイートする
欲望丸出しの、もうひとりの私

うわあ!
これは決して身バレしたくない
恥ずかしいアカウントですね
知り合いに知られてしまっては
破滅です

だが、あっさりとバレる

ある日ヘルパーの田中くんが
釈華さんは紗花さんですよねww
と言ってくる
・・いやいや、これは・・
チャンスだよね?

恋愛感情など、まったくない
しかし田中は健康な男で
さらに固い〇ニスと
たっぷりと精子を
持っているじゃないか!

そして釈華さんは
一世一代とでも言うべき
賭けに売ってでる
愚か者と思われてもいい
だって私は
生きているのだから・・

見たくないもの
隠しておきたいもの
それをさらけ出す
ショッキングな作品です

悲観的な描写が続きますが
その根底には
生への希望があるように
僕は思えました

黒々としたアスファルトを
割って生える
小さなワラビのようです
過酷な場所でも
生きることをあきらめない

読後に何かを突き抜けたような
気持ち良さがありました

あなたは障碍者の方を
ありのままの姿として
見つめることが出来ますか?

作品紹介(出版社より)

【第169回芥川賞受賞作】私の身体は、生き抜いた時間の証として破壊されていく

第169回芥川賞受賞。
選考会沸騰の大問題作!

井沢釈華しゃかの背骨は右肺を押しつぶす形で極度に湾曲し、歩道に靴底を引きずって歩くことをしなくなって、もうすぐ30年になる。

両親が終の棲家として遺したグループホームの、十畳ほどの部屋から釈華は、某有名私大の通信課程に通い、しがないコタツ記事を書いては収入の全額を寄付し、18禁TL小説をサイトに投稿し、零細アカウントで「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」とつぶやく。

ところがある日、グループホームのヘルパー・田中に、Twitterのアカウントを知られていることが発覚し——。

作品データ

タイトル:『ハンチバック』
著者:市川沙央
出版社:文藝春秋
発売日:2023/6/22

作家紹介

市川沙央(いちかわ・さおう)

1979年生まれ。 早稲田大学人間科学部eスクール人間環境科学科卒業。
筋疾患先天性ミオパチーによる症候性側弯症および人工呼吸器使用・電動車椅子当事者。
「ハンチバック」で第128回文學界新人賞を受賞し、デビュー。

市川沙央の作品紹介

ハンチバック』2023/6/22

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