【感想】『街とその不確かな壁』村上春樹|孤独な魂の巡礼

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村上春樹『街とその不確かな壁』

ケイチャン

ケイチャン

【2023年82冊目】

今回ご紹介する一冊は、

村上春樹 著

『街とその不確かな壁』です。

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【感想】「孤独な魂の巡礼」

喪失について書かれた幻想小説

17才のぼくは16才の彼女と出会い別れる
それは魂に刻まれた決定的な刻印
そしてぼくは壁に囲まれた
影と時のない、あの街へ行くのだ・・

人生に刻まれた1冊

読書好きな皆さまには
自分を変えるような1冊を
読まれたことがあるでしょう
僕にとってはその本は高校生の時に読んだ
『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』でした

そこで描かれた『壁のある街』が
ふたたび書かれるということで
読書の本当の楽しみを知った
あの思春期の気持ちが甦るようでした

以下、あらすじで
ものすごいネタバレになります

第一部

恋人が消えてしまった

物語は17才のぼくと16才の彼女の
美しい恋愛のようすからスタートします
輝くような素晴らしい日々
しかし、幸せは続きません
不吉な暗雲が立ち込めたと思ったら
あっという間に彼女は居なくなってしまう

それから日々は流れ
ぼくが45才になったとき
壁のある街へ行くのだ
そこは・・
高い壁にぐるりと囲まれ
力強い門衛が油断なく監視する
薄暗く
静かで
質素で
無感動
そこで失われた恋人の本体と出会う

壁のある街はユートピア?

毎日が同じことの繰り返し
TVも音楽も本もなく、無感動
しかし
かつて愛した彼女がいる
・・これはある意味
みんな望むユートピアではないのか?

でもその日々は
ある犠牲の上に立っていたのでした
それが『剥ぎとられた影』
でした

この影という存在が
とても難解でした
ああ、僕の理解力では
影がなんなのか言い表すことが出来ない
しかしこの影は人が人であるために
必要不可欠な存在なのでしょう

結局ぼくは影を見捨てることが出来ず
結果この壁のある街からはじき出されて
現実世界に戻って来てしまう

第二部

再生する世界

山間の町で図書館長となったぼくは
家族を失った幽霊と
愛を持たない少年と
愛し合うことができない女性と出会う

孤独な人たちとの交流は
僕の心を癒し
喪失を抱えたままでも
生きて行く術を見出してゆく

そして今度は少年が
壁のある街へ行くのだ

第三部

なんと第二部の僕は『影』であった
本体のぼくは壁のある街で
変らない日々を過ごしていた
そこへ少年がやってくる

そして少年と一体となったぼくは
ついにこの街から去ることを決意するのでした

『孤独な魂の巡礼』

いやあもう
震えるくらいに素晴らしい
読書体験でした

壁とはなにか
影とはなにか
その解釈は人の数だけあるでしょう

常に静かで無感動で喜びはないが
苦痛の無い壁のある街の世界と
孤独で日々心が痛み揺れ動くが
小さな共感と友愛のある現実世界

どちらかを選ぶことなど
出来やしない

2つの心の世界を
行きつ戻りつ
悩み苦しみながらも
歩くことを止めない
それが僕たちなのかも知れません

深く心を揺さぶる物語でした

作品紹介(出版社より)

十七歳と十六歳の夏の夕暮れ……川面を風が静かに吹き抜けていく。彼女の細い指は、私の指に何かをこっそり語りかける。何か大事な、言葉にはできないことを――高い壁と望楼、図書館の暗闇、古い夢、そしてきみの面影。自分の居場所はいったいどこにあるのだろう。村上春樹が長く封印してきた「物語」の扉が、いま開かれる。

作品データ

タイトル:『街とその不確かな壁』
著者:村上春樹
出版社:新潮社
発売日:2023/4/13

作家紹介

村上春樹(むらかみ・はるき)

1949年1月12日生まれ。日本の小説家、米文学翻訳家、エッセイスト。
京都府京都市に生まれ、兵庫県西宮市・芦屋市に育つ。早稲田大学第一文学部演劇科卒、ジャズ喫茶の経営を経て、1979年『風の歌を聴け』で群像新人文学賞を受賞しデビュー。当時のアメリカ文学から影響を受けた乾いた文体で都会生活を描いて注目を浴び、時代を代表する作家と目される。

1987年発表の『ノルウェイの森』は上下430万部を売るベストセラーとなり、これをきっかけに村上春樹ブームが起き、以後は国民的支持を集めている。その他の主な作品に『羊をめぐる冒険』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』など。日本国外でも人気が高く、現代アメリカでも大きな影響力をもつ作家の一人だと言われている。2006年、民族文化へ貢献した作家に贈られるフランツ・カフカ賞を受賞し、以後ノーベル文学賞の有力候補と見なされている。

デビュー以来、翻訳も精力的に行い、スコット・フィッツジェラルド、レイモンド・カーヴァー、トルーマン・カポーティー、レイモンド・チャンドラーほか多数の作家の作品を訳している。また、随筆・紀行文・ノンフィクション等も出版している。後述するが、ビートルズや ウィルコ といった音楽を愛聴し自身の作品にモチーフとして取り入れるなどしている。

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村上春樹の作品紹介

『風の歌を聴け』(1979年7月)
『1973年のピンボール』(1980年6月)
『羊をめぐる冒険』(1982年10月)
『中国行きのスロウ・ボート』(1983年5月)
『カンガルー日和』(1983年9月)
『螢/納屋を焼く/その他の短編』(1984年7月)
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985年6月)
『回転木馬のデッド・ヒート』(1985年10月)
『パン屋再襲撃』(1986年4月)
『ノルウェイの森』(1987年9月)
『ダンス・ダンス・ダンス』(1988年10月)
『TVピープル』(1990年1月)
『国境の南、太陽の西』(1992年10月)
『ねじまき鳥クロニクル』(1994年4月~1995年8月)
『レキシントンの幽霊』(1996年11月)
『スプートニクの恋人』(1999年4月)
『神の子どもたちはみな踊る』(2000年2月)
『海辺のカフカ』(2002年9月)
『アフターダーク』(2004年9月)
『象の消滅– 短篇選集1980-1991』(2005年3月)
『東京奇譚集』(2005年9月)
『はじめての文学 村上春樹』(2006年12月)
『1Q84』(2009年5月~2010年4月)
『めくらやなぎと眠る女』(2009年11月)
『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(2013年4月)
『女のいない男たち』(2014年4月)
『騎士団長殺し』(2017年2月)
『一人称単数』(2020年7月)
『街とその不確かな壁』(2023年4月)

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