【感想】『よき時を思う』宮本輝|人生の喜びを凝縮した、このひと夜

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よき時を思う|宮本輝

ケイチャン

ケイチャン

【2023年67冊目】

今回ご紹介する一冊は、

宮本輝 著

『よき時を思う』です。

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【感想】「人生の喜びを凝縮した、このひと夜」

美しい家族小説

90歳の記念に
祖母が企画した豪華絢爛な晩餐会
愛しい家族が集うさまを優しく描く
全てに感謝したくなるような物語です

あなたは正装をしたことが
ありますか?

男性はタキシード
女性はイブニングドレス
結婚式すら廃れてしまった
この令和時代に正装なんて
なかなか機会がないでしょう

お祖母ちゃんが
生涯の夢の舞台を演出する
孫として協力せざるを得ない
最高の夜にするんだ!

さて物語は主人公の綾乃が住む
『四合院』の住居からスタートします

『しごういん』ってなーに?
4つの建屋がぐるりと敷地を囲み
中央に中庭を配置する
中国の伝統家屋です

大家族で住む前提のこの住居
僕も憧れているんですよね
金持ちになったら建ててみたい
なんて思っていましたww

マンションで核家族が暮らすのが
主流の現代からすると
浮世離れした感がありますが
それは
夢と現(うつつ)
理想と現実のように
僕たちの心の2つの様相を
表しているよう

「人生の喜びを凝縮した、このひと夜」

晩餐会に供された料理に
コンソメ・ド・ジビエという
スープがあります

野生の鳥獣や野菜・香草を
丁寧に下ごしらえして
2日も3日も煮て作ります

美味しいものには時間がかかる

そして材料にも
甘く柔らかく口あたり
いいものだけではいけない
固い肉骨や苦みのある野菜
があることによって
奥深い味わいが得られる

人生もこのスープのようですね

90歳になった徳子おばあちゃん
戦時中16歳で嫁ぎ
たった2週間の新婚生活で
夫を失います

武家の末裔だった徳子ちゃんは
自決を決意します
家伝の短刀を胸に突き刺す・・
その時ちょっとした偶然が
彼女を留まらせるのでした

絶望の果てから
幾星霜を経ての
奇跡のような晩餐会
集うのは愛する家族

その晩、この祝福された家族を包むのは
感謝
慈愛
そして、生きる喜び

長い生の果てに辿り着いた
ひと夜の晩餐会と
そこに集った人々を描く
美しく優しい物語でした

読後にあなたも
きっちりと正装をして
愛する人に
感謝を伝えたくなるはず

作品紹介(出版社より)

よき時、それはかつての栄光ではなく、光あふれる未来のこと。

いつか、愛する者たちを招いて晩餐会を——
九十歳の記念に祖母が計画した、一流のフレンチシェフと一流の食材が織りなす、豪華絢爛な晩餐会。
子どもたち、孫たちはそれぞれの思いを胸にその日を迎える。
徳子おばあちゃんは、なぜ出征が決まった青年と結婚したのか?
夫の戦死後、なぜ数年間も婚家にとどまったのか?
そしてなぜ、九十歳の記念に晩餐会を開くことにしたのか?
孫の綾乃は祖母の生涯を辿り、秘められた苦難と情熱を知る——。
一人の命が、今ここに在ることの奇跡が胸に響く感動長編!

作品データ

タイトル:『よき時を思う』
著者:宮本輝
出版社:集英社
発売日:2023/1/26

作家紹介

宮本 輝(みやもと・てる)

1947年兵庫県生まれ。追手門学院大学文学部卒業。
1977年「泥の河」で太宰治賞を受賞。
1978年「螢川」で芥川賞を受賞。
1987年『優駿』で吉川英治文学賞を受賞。
2004年『約束の冬』で芸術選奨文部科学大臣賞文学部門を受賞。
2009年『骸骨ビルの庭』で司馬遼太郎賞を受賞。
2019年「流転の海」シリーズ完結で毎日芸術賞を受賞。
著作に、『水のかたち』『田園発 港行き自転車』『草花たちの静かな誓い』『灯台からの響き』など。
2010年秋に紫綬褒章、2020年春に旭日小綬章を受章。

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