ケイチャン
【2022年92冊目】
今回ご紹介する一冊は、
村田沙耶香 著
『信仰』 です。
もくじ
【感想】「自分らしく生きる?そんなの嫌われるだけだよ笑」
タイトルにもなっている1話目の『信仰』は
カルト宗教を始める3名の若者の物語です
カルト宗教を始めようよ!
と中学の同級生だった男の石毛(いしげ)に誘われるミキちゃん
赤裸々過ぎる胡散臭さに、騙される要素などないはずでしたが
メンバーに中学校の同級生だった斉川さんがいて意外に思う
あの真面目で大人しい斉川さんが、なぜ?
聞けば彼女は浄水器商法でカモられたリベンジをしたいというのだ
だけどそれ・・ホントなの?
カルト教祖になるという斉川さんにシンパシーを感じるミキちゃん
ミキは現実しか見ない人間でした
ブランド品?そんなの有名税だけで、原価は安いよ
高価な化粧品?同じ効用のものが、ドラッグストアで売ってるよ
付加価値なんて幻想は、要らなくない?と
当然、嫌われてしまいますね
ミキちゃんは親切から人にアドバイスしているつもりなのだが
友人はむろん、恋人も、妹も、ミキから離れていってしまう
これはダメだ。人が変えれないなら、自分が変わるしかない!
いっぽう斉川さんも、心から人の役に立つと信じた
浄水器が詐欺であったことに反省をしていたのだが
その反省の仕方が彼女らしかった
よし、モノがダメなら、ココロを売ろう
そして人々を幸せにするんだ!
そう2人はアプローチは違うのだが
根っこは同じ人間だったのです
斉川さんのカルトに自分を変える可能性を見たミカちゃん
わたしに幻想を見せてよ
そしてみんなみたいに
幸せに騙される人に変えてくれ!
そして夜空の下で天動説セラピーが始まる
半裸でスタートしたセラピーは
裏切り者の石毛クンをタコ殴りにしたところで
全裸の狂乱の宴となる
参加者は次々と幻覚を見る
ペガサス
スフィンクス
幻獣との邂逅に狂喜する参加者たちだが
ミカちゃんに幻覚は訪れなかった
目に映るのは全裸で大騒ぎする女たち
その現実しか見えなかったのです
360度回って自分に帰るしかなかったミカは
悔しくて叫ぶのだ、参加費10万円を返せーー!と
村田沙耶香の作品には、徹底的な自己否定が貫かれているようです
この世界に自分は必要なく
この世界に自分は受け入れてもらえない
と
そんな自分を変えようと180度回って努力したのち
あ、やっぱ無理だわ笑、と
もう180度回って、自然な自分に戻ってしまうのです
そんな登場人物たちが
僕は愛おしい
作品紹介(出版社より)
世界中の読者を熱狂させる、村田沙耶香の最新短篇&エッセイ
「なあ、俺と、新しくカルト始めない?」
好きな言葉は「原価いくら?」で、
現実こそが正しいのだと、強く信じている永岡。
同級生から、カルト商法を始めようと誘われた彼女は――。信じることの危うさと切実さに痺れる8篇。
〈その他収録作〉
★生存
65歳の時点で生きている可能性を数値化した、
「生存率」が何よりも重要視されるようになった未来の日本。
生存率「C」の私は、とうとう「野人」になることを決めた。★書かなかった小説
「だいたいルンバと同じくらいの便利さ」という友達の一言に後押しされて、クローンを4体買うことにした。
自分を夏子Aとし、クローンたちを夏子B、C、D、Eと呼ぶことにする。
そして5人の夏子たちの生活が始まった。★最後の展覧会
とある概念を持つ星を探して、1億年近く旅を続けてきたK。
彼が最後に辿り着いた星に残っていたのは、1体のロボットだけだった。
Kはロボットと「テンランカイ」を開くことにする。ほか全8篇。
作品データ
タイトル:『信仰』
著者:村田沙耶香
出版社:文藝春秋
発売日:2022/6/8
作家紹介
村田 沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部芸術文化学科卒。
2003年「授乳」で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)受賞。
2009年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞受賞。
2013年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島賞受賞。
2016年「コンビニ人間」で芥川賞受賞。
著書に『マウス』『星が吸う水』『ハコブネ』『タダイマトビラ』『殺人出産』『消滅世界』『生命式』『変半身』『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。
村田沙耶香の作品紹介
『授乳』(2005年3月)
『マウス』(2008年3月)
『ギンイロノウタ』(2008年10月)
『星が吸う水』(2010年2月)
『ハコブネ』(2011年11月)
『タダイマトビラ』(2012年3月)
『しろいろの街の、その骨の体温の』(2012年9月)
『殺人出産』(2014年7月)
『消滅世界』(2015年12月)
『コンビニ人間』(2016年7月)
『地球星人』(2018年8月)
『生命式』(2019年10月)
『変半身(かわりみ)』(2019年11月)
『丸の内魔法少女ミラクリーナ』(2020年2月)
『信仰』(2022年6月)