【感想】『夏鳥たちのとまり木』奥田亜希子|わたしは守られていたの?それとも何かを盗まれたの?

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夏鳥たちのとまり木|奥田亜希子

ケイチャン

ケイチャン

【2022年88冊目】

今回ご紹介する一冊は、

奥田亜希子 著

『夏鳥たちのとまり木』です。

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【感想】「わたしは守られていたの?それとも何かを盗まれたの?」

あの夏わたしを守ってくれた人は、何者だったのだろう?
ひと夏の逃避行の意味を問う、少女たちの物語です

中学教師の葉奈子(はなこ)は鳩のヒナを拾う
巣から落ち今にも息絶えそうな赤ちゃん鳩
見過ごすことなんて出来ない・・
しかしこれは雛鳥にしてはいけないことでした

生徒や同僚に少し壁を作って接する葉奈子センセ
その原因はシングルマザーの母との関係にありました
自身の浪費と恋愛にかまけ、娘に感心を持たない母
衣服はもちろん、日々の食事にも事欠いた少女時代に
酷暑の夏、エアコンは壊れ、命の危機を感じた葉奈子は
SNSで助けを求める。『ウチにおいでよ、守ってあげる』
その言葉を信じて、幼い葉奈子は家出し、男のもとへ行く

「わたしは守られていたの?それとも何かを盗まれたの?」

守ってあげるとの言葉どおり、葉奈子を誘い出した男のナオは
葉奈子に1部屋を与え、食事を提供し、居場所をくれました
カラダを求めることも、家事をすることも要求せず
最低限の接触しかしない・・葉奈子は安らぐ
勉強する葉奈子にナオは『キミは大丈夫』と言ってくれた
ナオと生活した2週間の後、この言葉は葉奈子のお守りとなる

いっぽう大人になった葉奈子センセは教え子の問題とぶつかる
3日間家出した星来(せいら)は女子高生インスタグラマーの
家に居たと言うのだが・・嘘の気配を感じる葉奈子
星来は男のところに居たのでは・・かつての私のように

そんな中、葉奈子は拾った鳩のヒナを野生に返しそびれていた
育ての親の葉奈子に懐く可愛いヒナ鳥、ずっと一緒に居たい
しかし雷鳴とどろくある日に、ヒナは死んでしまいます
ああ!こんなことならば早くここから出してあげれば良かった
わたしがヒナと別れ難く、愛玩したがため、殺してしまったのね

そこで葉奈子は思い出すのです、ナオの家にあったたくさんの歯ブラシを
そして気が付き確信する
たしかに私はナオに守られた
しかし一方で確かに彼は私と他のたくさんの少女たちから
性的な何かを盗んでいたのだと

保護とはなにか?
搾取と違うのか?
まったく異なる意味を持つものの
同じ行為となった、あの夏の日々を再検討しよう
そして教え子を導くために
今の自分の壁を壊すのだ!

過去と向き合い、今を再生して、教え子のために奮闘する
かつて幼く無力だった少女が、人として教師として成長する
僕もかつて思春期だったと、あの頃を思い出すような
祈りと慈愛に満ちた物語です

作品紹介(出版社より)

中学教師の葉奈子は中二の夏、ネットの掲示板で声をかけてきた男のもとに身を寄せた。そこは、母親から放置されていた葉奈子が逃げ込んだ場所だった。だが、教え子の女子生徒が抱える秘密と、15年前の夏の記憶が重なったとき、ひとつの真実が立ち上がる――。心に傷を負ったまま生きる中年男性教師の再起を絡めて描く、希望と祈りの物語。

作品データ

タイトル:『夏鳥たちのとまり木』
著者:奥田亜希子
出版社:双葉社
発売日:2022/5/19

作家紹介

奥田亜希子(おくだ・あきこ)

1983年、愛知県生れ。愛知大学文学部哲学科卒業。
2013年、『左目に映る星』で第37回すばる文学賞を受賞しデビュー。
ほかの著書に『ファミリー・レス』『五つ星をつけてよ』『リバース&リバース』『青春のジョーカー』『魔法がとけたあとも』『愛の色いろ』『愉快な青春が最高の復讐!』『白野真澄はしょうがない』がある。

奥田亜希子の作品紹介

『五つ星をつけてよ』(2016/10/21)
『左目に映る星』(2014/02/05)
『透明人間は204号室の夢を見る』(2015/05/01)
『ファミリー・レス』(2016/05/27)
『リバース&リバース』(2017/11/22)
『青春のジョーカー』(2018/03/26)
『魔法がとけたあとも』(2019/05/21)
『五つ星をつけてよ』(2019/05/01)
『愛の色いろ』(2020/02/18)
『愉快な青春が最高の復讐!』(2020/05/26)
『白野真澄はしょうがない』(2020/10/22)
『青春のジョーカー』(2020/12/23)
『クレイジー・フォー・ラビット』(2021/07/07)
求めよ、さらば』(2021/12/24)
『彼方のアイドル』(2022/01/13)
夏鳥たちのとまり木』(2022/05/19)

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