【感想】『ラブカは静かに弓を持つ』安壇美緒|都会に住んでいるのに、僕の心は深海にいるようなんだ

579 views
ラブカは静かに弓を持つ|安壇美緒

ケイチャン

ケイチャン

【2022年87冊目】

今回ご紹介する一冊は、

安壇美緒 著

『ラブカは静かに弓を持つ』です。

PR

【感想】「都会に住んでいるのに、僕の心は深海にいるようなんだ」

著作権料を徴収するためスパイせよ!
日本音楽著作権協会の職員、橘は上司から音楽教室への潜入捜査を命じられた
しかしチェロを習い、受講生と交流するうちに
橘は職務と信義の板挟みになってゆく

容姿端麗ながら人との交際が苦手な、不眠症の橘クン
それは中学生の時に誘拐されかけたことが原因でした
暗い夜に車へ押し込められかけたが、背負っていたチェロが大きくて入らず
未遂に終わる。しかしこの時の恐怖は壊れてしまったチェロのように修復出来なかった
この世界は油断していると暗い場所に連れて行かれてしまう・・
子供心に不信感が植え付けられてしまったのです

「都会に住んでいるのに、僕の心は深海にいるようなんだ」

チェロ講師の浅葉の熱心な指導で、チェロを奏でる喜びに再び目覚める橘
週末にはカラオケにレンタルしたチェロを持ち込み
時間が許す限り練習に励むのでした
同じ浅葉講師の門弟と飲みに行ったりして、日々は充実、不眠も治ってしまいます

しかし僕はスパイ
職務とはいえ、自分の行為は後ろめたいものであり、苦悩する橘
営利目的の音楽教室の子弟関係とはいえ
そこから生じた信頼は純粋なものです
同じ音楽を愛する人々との、喜びある絆を失いたくないと思うのは当然のことです

そんな時、浅葉講師が音楽コンクールに出場すると聞いた橘
自分の報告を受けて著作権協会が音楽教室を訴えたならば
浅葉講師が裁判に引っ張り出されるのは必定、コンクールどころでは無くなる
自分を信頼している彼にそんなことしてもいいのか!

職務と信義を天秤にかけて、橘が選んだ選択とは?
深海をさまよう彼の心は、再び浮上することが出来るのでしょうか?

人と人との信頼はどこから来るのでしょうか
絆の素晴らしさをもう一度思い出させるような
素敵な物語でした

作品紹介(出版社より)

武器はチェロ。
潜入先は音楽教室。
傷を抱えた美しき潜入調査員の孤独な闘いが今、始まる。
『金木犀とメテオラ』で注目の新鋭が、想像を超えた感動へ読者を誘う、心震える“スパイ×音楽小説”!

少年時代、チェロ教室の帰りにある事件に遭遇し、以来、深海の悪夢に苛まれながら生きてきた橘。
ある日、上司の塩坪から呼び出され、音楽教室への潜入調査を命じられる。
目的は著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむこと。
橘は身分を偽り、チェロ講師・浅葉のもとに通い始める。
師と仲間との出会いが、奏でる歓びが、橘の凍っていた心を溶かしだすが、法廷に立つ時間が迫り……

作品データ

タイトル:『ラブカは静かに弓を持つ』
著者:安壇美緒
出版社:集英社
発売日:2022/5/2

作家紹介

安壇 美緒(あだん・みお)

1986年北海道生まれ。 早稲田大学第二文学部卒業。
2017年『天龍院亜希子の日記』で第30回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。
著書に、北海道の女子校を舞台に思春期の焦燥と成長を描いた『金木犀とメテオラ』がある。

安壇 美緒の作品紹介

『天龍院亜希子の日記 』2018/03/05
『金木犀とメテオラ』 2020/02/26
ラブカは静かに弓を持つ』 2022/05/02

関連記事