【感想】『母の待つ里』 浅田次郎|都会に住んでいるのに、満たされない

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母の待つ里|浅田次郎

ケイチャン

ケイチャン

【2022年45冊目】

今回ご紹介する一冊は、

浅田次郎

『母の待つ里』です。

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【感想】「都会に住んでいるのに、満たされない」

現代小説

故郷に帰る・・
しかしそれは作られた、ふる里
待つ母は、赤の他人
それでもそこで癒される人がいる

年会費35万円のカード
その特典に『ふる里に帰る』イベントがあった
代金は1泊50万円
興味本位で試した3人は
田舎の自然と、母の演技力にすっかり癒されてしまう

僕はこの設定に違和感と嫌悪感を持ってしまい
それは最後まで続きました
赤の他人を母と呼び、その演技に甘えるとは!
3人の利用者と同じように両親と死別し、
還暦を超える年齢になると、感じ方も変わるのかなぁ?
・・わかりません

物語はこの3人の利用者の
これまでの来し方をなぞり進みます

大企業の社長
定年と同時に熟年離婚した男
定年間近の女医
人生の黄昏時を迎えた人々の姿が語られます

年会費35万のカードを持つ身分なので
その生活はまあ優雅なもんですな

問題は心の在り方

豊かであっても、心が充足しているわけではないのです

「都会に住んでいるのに、満たされない」

人と人との関係が希薄なのが都会の特徴です
会社などの関連が切れてしまうと
あっという間に孤独になってしまう
乾いた、砂漠のようです

いっぽう、地縁・血縁が生きているのが地方
『ふる里』では同級生・隣人・そして母が
おかえりッ!と声をかけてくれる
それはエキストラの皆さんで、演技なんですがねww

都会に生きる皆さんは、会社や学校以外では
人と挨拶すら交わさない日も
あったりするでしょう
こんなに人がたくさんいるのに、おかしなことですね

偽りの故郷に望郷の念を満たされ
偽の母親にココロ満たされる都会人たち
それは移住すら考える程です

そして、もう1人の主人公と言えるのが
偽りの『母』です

田舎の母の演技に徹する、それはもはや自然体とも見えるほどに
圧倒的な母性で、おもてなしする

実在の母を超える、理想的な母の虚像なのです

物語は最後に、この母の死と
葬式に参列した、4人の子供たちのシーンで
エピローグを迎える

偽りの『母』の完璧なるホスピタリティ
それは本当の家族の喪失からくるものであった
母も偽りの子供たちを必要としていたのです

理想の故郷のイメージを具現化し
ノスタルジーに浸れるストーリー展開
いっぽう故郷のテーマパークというべき
実験的な設定が、作者の野心を感じさせます

あなたも偽物のふる里に
帰郷してみたいと、思いますか?

作品紹介(出版社より)

上京して四十年、一度も帰ろうとしなかった郷里で私を温かく迎えてくれたのは、名前も知らない〈母〉でした――。家庭も故郷も持たない人々の元に舞い込んだ〈理想のふるさと〉への招待。半信半疑で向かった先には奇跡の出会いが待っていた。雪のように降り積もる感動、全く新しい家族小説にして永遠の名作誕生!

作品データ

タイトル:『母の待つ里』
著者:浅田次郎
出版社:新潮社
発売日:2022/1/26

作家紹介

浅田 次郎(あさだ・じろう)

1951年、東京生まれ。
1995年『地下鉄(メトロ)に乗って』で吉川英治文学新人賞受賞。
1997年『鉄道員(ぽっぽや)』で直木賞受賞。
2000年『壬生義士伝』で柴田錬三郎賞受賞など、数々の文学賞を受賞。
幾多のベストセラー作品を執筆。

浅田次郎の作品紹介

『三人の悪党– きんぴか1』(1992年1月)
『血まみれのマリア– きんぴか2』(1993年2月)
『プリズンホテル1 夏』(1993年2月)
『日輪の遺産』(1993年8月)
『真夜中の喝采– きんぴか3』(1994年2月)
『地下鉄に乗って』(1994年3月)
『プリズンホテル2 秋』(1994年8月)
『プリズンホテル3 冬』(1995年9月)
『蒼穹の昴』(1996年4月)
『天切り松 闇がたり1闇の花道』(1996年7月)
『プリズンホテル4 春』(1997年1月)
『鉄道員(1997年4月)
『活動寫眞の女(1997年7月)
『月のしずく』(1997年10月)
『珍妃の井戸– 蒼穹の昴2』(1997年12月)
『見知らぬ妻へ』(1998年5月)
『霞町物語』(1998年8月)
『天国までの百マイル』(1998年12月)
『天切り松 闇がたり2残侠』(1999年9月)
『シェエラザード』(1999年12月)
『壬生義士伝』(2000年4月)
『薔薇盗人』(2000年8月)
『姫椿』(2001年1月)
『歩兵の本領』(2001年4月)
『王妃の館』(2001年7月)
『オー・マイ・ガアッ!』(2001年10月)
『天切り松 闇がたり3初湯千両』(2002年2月)
『沙高樓綺譚』(2002年5月)
『椿山課長の七日間』(2002年10月)
『五郎治殿御始末』(2003年1月)
『輪違屋糸里』(2004年5月)
『霧笛荘夜話』(2004年11月)
『草原からの使者– 沙高樓綺譚』(2005年2月)
『天切り松 闇がたり4昭和侠盗伝』(2005年5月)
『憑神』(2005年9月)
『お腹召しませ』(2006年2月
『あやしうらめしあなかなし』(2006年7月)
『中原の虹– 蒼穹の昴3』(2006年~2007年)
『月下の恋人』(2006年10月)
『月島慕情』(2007年3月)
『はじめての文学浅田次郎』(2007年4月)
『夕映え天使』(2008年12月)
『ハッピー・リタイアメント』(2009年11月)
『終わらざる夏』(2010年7月)
『マンチュリアン・リポート– 蒼穹の昴4』(2010年9月)
『一刀斎夢録』(2011年1月)
『降霊会の夜』(2012年3月)
『赤猫異聞』(2012年8月)
『一路』(2013年2月)
『黒書院の六兵衛』(2013年10月)
『天切り松 闇がたり5ライムライト』(2014年1月)
『神坐す山の物語』(2014年10月)
『ブラックオアホワイト』(2015年2月)
『わが心のジェニファー』(2015年10月)
『獅子吼』(2016年1月)
『帰郷』(2016年6月)
『天子蒙塵– 蒼穹の昴5』(2016年~2018年)
『おもかげ』(2017年12月)
『長く高い壁– The Great Wall』(2018年2月)
『大名倒産』(2019年12月)
『流人道中記』(2020年3月)
『兵諌– 蒼穹の昴6』(2021年7月)
母の待つ里』(2022年1月)

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