【感想】『ミス・サンシャイン』吉田修一|悲しみの吐き出し方なんて、知らない!

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ミス・サンシャイン|吉田修一

ケイチャン

ケイチャン

【2022年29冊目】

今回ご紹介する一冊は、

吉田修一 著

『ミス・サンシャイン』です。

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【感想】「悲しみの吐き出し方なんて、知らない!」

かつて巨大に輝いた大女優は
年老いてなお美しかった!

引退した女優の資料整理を手伝うことになった大学生が
絢爛たる昭和映画時代を追う、過去と
彼のせつない恋が進む、今を描く物語です

戦後の大スター、和楽京子(わらくきょうこ)
女性は従順で受け身が良しとされていた時代に
健康な笑顔、こぼれ落ちんばかりの肉体で
新しい時代の女、アプレ女優と呼ばれた

当初は肉体派のセックスシンボルで売り出したが
カンヌ映画祭で受賞、ハリウッド映画に出演
アカデミー賞にノミネートされ
演技派の大女優としてスターダムを駆け上がる

イケイケドンドンですねww
勢いよく上昇してゆくサクセスストーリーは
読んでいて楽しい

いっぽうで主人公は現代の若者、一心(いっしん)
一度就職したものの『なんか合わねえな』と
2ヵ月で退社、大学院に入り直しています
迷えるモラトリアムですね

大学院の教授から紹介されたバイト
それがもと大女優の倉庫整理
旧作映画ファンだった主人公にうってつけです
改めて和楽京子の魅力に惹かれてゆく

そんな彼には気になる女性がいた
カフェの店員、桃ちゃん
勇気を振り絞って映画に誘う
だが彼女は言うのだった
『私、付き合ってる人がいるの』
せつない恋のスタートとなります

彼氏と別れて一心と付き合う桃ちゃん
でも元カレが忘れられない
元カレのマンションの玄関で許しを請い
泣き叫ぶ桃ちゃん
そんな彼女を受け入れることもできず
あきらめることもできない・・
苦しい恋が続きます

物語は女優、和楽京子の軌跡を辿る過去と
恋に悩む、一心の今を行き来しつつ進む

「悲しみの吐き出し方なんて、知らない!」

そして中盤からこの物語の核となる
悲しみについて語られます

和楽京子こと長崎産まれの、静さん
少女の頃に被爆しています
そして双子のような親友を原爆症で失った

ここでタイトルの『ミス・サンシャイン』の意味が明らかとなる
ハリウッドで付けられたこの名前は
長崎に落とされた原子爆弾を揶揄するものでした
・・屈辱ですね

いっぽう主人公の一心は病気で妹を失っていた
亡くなった妹の悲しみが全く癒えていないことに気付く一心
しかし妹が言った言葉を思い出す
お兄ちゃん!私は可哀想な子じゃない
みんなに愛された幸せな子なんだよ、覚えていてね・・と

図らずもこれは静の親友が残した言葉と同じであった
悲しみに囚われることは故人が望んでいない
静との交流をするうちに心のゆとりを取り戻してゆく一心
それは紛れもない、恋心であった・・

元女優の普通の青年の交流を描きながら
ひとりひとりの人間の複雑さと弱さ強さを描く
味わい深い物語となっています

あなたもきっと強烈に輝く
昭和の映画作品を
観たくなる

作品紹介(出版社より)

僕が恋したのは、美しい80代の女性でした…。大学院生の岡田一心は、伝説の映画女優「和楽京子」こと、鈴さんの家に通って、荷物整理のアルバイトをするようになった。鈴さんは一心と同じ長崎出身で、かつてはハリウッドでも活躍していた銀幕のスターだった。せつない恋に溺れていた一心は、いまは静かに暮らしている鈴さんとの交流によって、大切なものに触れる。まったく新しい優しさの物語。

作品データ

タイトル:『ミス・サンシャイン』
著者:吉田修一
出版社:文藝春秋
発売日:2022/1/7

作家紹介

吉田修一(よしだ・しゅういち)

長崎県生まれ。
1997年「最後の息子」で第84回文學界新人賞を受賞し、デビュー。
2002年『パレード』で第15回山本周五郎賞、「パーク・ライフ」で第127回芥川賞を受賞。
2007年『悪人』で第34回大佛次郎賞と第61回毎日出版文化賞を受賞。

吉田修一の作品紹介

『最後の息子』(1999年7月)
『熱帯魚』(2001年1月)
『パレード』(2002年2月)
『パーク・ライフ』(2002年8月)
『日曜日たち』(2003年8月)
『東京湾景』(2003年10月)
『長崎乱楽坂』(2004年5月)
『ランドマーク』(2004年7月)
『春、バーニーズで』(2004年11月)
『7月24日通り』(2004年12月)
『ひなた』(2006年1月)
『女たちは二度遊ぶ』(2006年3月)
『初恋温泉』(2006年6月)
『うりずん』(2007年2月)
『悪人』(2007年4月)
『静かな爆弾』(2008年2月)
『さよなら渓谷』(2008年6月)
『元職員』(2008年11月)
『キャンセルされた街の案内』(2009年8月)
『横道世之介』(2009年9月)
『平成猿蟹合戦図』(2011年9月)
『太陽は動かない』(2012年4月)
『路(ルウ)』(2012年11月)
『愛に乱暴』(2013年5月)
『怒り』(2014年1月)
『森は知っている』(2015年4月)
『橋を渡る』(2016年3月)
『犯罪小説集』(2016年10月)
『ウォーターゲーム』(2018年5月)
『国宝』(2018年9月)
『続 横道世之介』(2019年2月)
『青春 コレクションI』(2019年9月)
『アンジュと頭獅王』(2019年9月)
『逃亡小説集』(2019年10月)
『恋愛 コレクションII』(2019年11月)
『犯罪 コレクションIII』(2020年1月)
『長崎 コレクションIV』(2020年3月)
『湖の女たち』(2020年10月)
『ブランド』(2021年7月)
『オリンピックにふれる』(2021年10月)
ミス・サンシャイン』(2022年1月)

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