【感想】『猿の戴冠式』小砂川チト|私に王冠を授けるのは、私でよい

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猿の戴冠式|小砂川チト

ケイチャン

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【2024年31冊目】

今回ご紹介する一冊は、

小砂川チト 著

『猿の戴冠式』です。

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【感想】「私に王冠を授けるのは、私でよい」

第170回 芥川賞候補作

ねえ、私たちはこのまま
檻の中にいるの?
猿(ボノボ)と人間がシンクロする時
現実と妄想が溶け合う
祈りのような物語です

私の王冠は、誰のものなの?

まず動物園に飼われる
ボノボのシネノが語り手となります
彼女は知性が高く、子供の頃に何かの
実験・訓練を受けているようですが
どうやらトラブルが発生して
失敗に終わったようです

今はただ展示される、猿

そこにあらわれたのが
競歩選手の、しふみさんです
ある大会で大失態を犯し炎上
メンタルぼろぼろの中
シネノに会いに来たのだ

わたしたち会ったことあるよね?

物語はシネノと
しふみによって進んでゆく
やがて2人(シネノは猿だが)の
境界線はあいまいとなってゆき
別人格(シネノは猿)の1人のごとく
人と猿が溶け合うのでした

そして台風の夜に
動物園を脱走するシネノ
それを知った、しふみは
ある幻視をするのだ

「私に王冠を授けるのは、私でよい」

現実と妄想の境界線が
あやふやな本作
夢幻の世界を歩くような
フワフワとした印象です

でもそこかしこに潜む
恐ろしいものを感じます

霧の中に恐ろしい敵が
隠れている
狙われている
そんな感じです

緊張感を伴う読書体験でした

台風の夜、動物園を脱走するシネノ
ボノボがこの日本で生きていける
はずないのに、逃げられるはずなく
居場所なんて檻のなかにしかないのに
・・それは僕ら人間も同じなのか・・

物語の最後のあたりで
しふみとシネノが溶け合うシーンは
もう狂気じみていて
急き立てられるように
読んでしまいました

他者と自分の関係性を描く本作
自分の価値は自分で付けるんだよ的な
終わりかただったと感じましたが
・・みなさんはどう感じるのでしょうか?

作品紹介(出版社より)

第170回芥川龍之介賞候補作。

いい子のかんむりは/ヒトにもらうものでなく/自分で/自分に/さずけるもの。

ある事件以降、引きこもっていたしふみはテレビ画面のなかに「おねえちゃん」を見つけ動植物園へ行くことになる。言葉を機械学習させられた過去のある類人猿ボノボ”シネノ”と邂逅し、魂をシンクロさせ交歓していく。
――”わたしたちには、わたしたちだけに通じる最強のおまじないがある”。

”女がいますぐ剥ぎ取りたいと思っているものといえば、それは〈人間の女の皮〉にちがいなかった。女は人間の〈ふり〉をして、ガラスの向こう側にたっている”

”女とシネノは同じだった。シネノのほうはそのふるまいこそ完璧ではあったけれど、それでも猿の〈ふり〉をして、あるいは猿の〈姿をとって〉、こちら側にいる”

ねえ、なにもかもがいやなかんじなんでしょう。ちがう?

作品データ

タイトル:『猿の戴冠式』
著者:小砂川チト
出版社:講談社
発売日:2024/1/19

作家紹介

小砂川チト(こさがわ・ちと)

1990年岩手県生まれ。慶応義塾大学文学部卒業、同大学院社会学研究科心理学専攻修了。
2022年、「家庭用安心坑夫」で第65回群像新人文学賞を受賞。同作が第167回芥川賞候補作となる。

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小砂川チトの作品紹介

家庭用安心坑夫』2022/7/11
猿の戴冠式』2024/1/19

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