【感想】『祝祭の子』逸木裕|弱い者がさらに弱い者を傷つける負の連鎖

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祝祭の子|逸木裕

ケイチャン

ケイチャン

【2022年142冊目】
今回ご紹介する一冊は、
逸木裕 著
『祝祭の子』です。

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【感想】「弱い者がさらに弱い者を傷つける負の連鎖」

サイコスリラー

少女時代、師に先導され起こした事件が
いつまでも自分を苛む
決して許されることない罪の刻印
主人公のわかばは
33人殺しを起こした5人の少年少女の
生存者であった

みなさんは学生運動について
どれくらいご存知でしょうか
僕の父はいわゆるノンポリ学生でしたが
そんな彼もお付き合いでジグザグデモに
参加したことがありました
当時の緊迫した様子を聞いたことがあります

かつて熱く燃えた時代があったんですね

わかば達5人の師はかつて学生運動に燃え
挫折した女性でした
そして自らを襲ったある事件から
さらに世と人を恨むこととなる

そんな彼女がとった復讐の方法は
捨て子たちを戦闘マシーンとして
養育することでした
洗脳された少女兵士、それがわかばです

そして『祝祭』の時がきた
師の号令のもと死神となった少年少女たちにより
村は灰燼と化し死体の山が積みあがる
その後師は行方をくらまし
子供たちは警察に保護される

「弱い者がさらに弱い者を傷つける負の連鎖」

少年法により不起訴となるわかば達
しかしいくら洗脳されていたとて
33人殺しは重い
成人したわかばはまともな職も
人間関係も築くことができず
生活は常に困窮していた

だが事態はさらに悪い方向へと進む

師、石黒望の遺体が発見された時から
停滞していた負の連鎖がドミノのように
次々と倒れ行く
何者かにつけ狙われて住処を追われ
命も狙われるわかば

私たちを狙うのは誰なの?

そして5人の生存者たちは
再び生死を賭けたデスゲームに
強制的に参加させられるのだった
生き残るのは、誰だ?

いわゆる復讐デスゲームものですが
5人の生存者たちのキャラが立っていて
ドキドキと読み進められました
自分だったらこの時どうする?
なんて考えてね笑

もう一人の主人公、師の石黒望の生きざまが
サイドストーリーとして語られて
学生運動やバブル期の地上げなど
かつての熱く狂った時代のありさまも
興味深く読めました

僕は血の気が多い方なので
わかばのように洗脳されていたら
とんでもない少年兵になっていたかも知れません
あなたは自分はそんなことないと
言いきれますか?

作品紹介(出版社より)

かつて、宗教団体〈褻〉のトップ・石黒望は、子供たちに命じ信者らを殺害する。殺人を犯し生き残った子供は〈生存者〉と呼ばれ、その存在は多くの議論を呼んだ。時が経ち、生存者のわかばは警察に石黒の遺体が発見されたと聞くが、その後何者かに襲われる。共に暮らした仲間と再会するが彼らもまた被害に遭っていた……ミステリー界注目の作家が贈る、新境地!

作品データ

タイトル:『祝祭の子』
著者:逸木裕
出版社:双葉社
発売日:2022/8/18

作家紹介

逸木 裕(いつき・ゆう)

1980年東京都生まれ。学習院大学法学部法学科卒。
フリーランスのウェブエンジニア業の傍ら、小説を執筆。
2016年、『虹を待つ彼女「虹になるのを待って」を改題」』で第36回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビュー。
他の著書に『少女は夜を綴らない』『星空の16進数』がある。

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逸木 裕の作品紹介

『虹を待つ彼女』 2016/09/30
『少女は夜を綴らない』 2017/07/21
『星空の16進数』 2018/06/29
『電気じかけのクジラは歌う』 2019/08/08
『銀色の国』 2020/05/29
『空想クラブ』 2020/08/28
『五つの季節に探偵は』 2022/01/28
『風を彩る怪物』 2022/06/10
祝祭の子』 2022/08/18