ケイチャン
【2024年109冊目】
今回ご紹介する一冊は、
水生大海 著
『救世主』です。
もくじ
【感想】「弱い人からむしり取る制度」
悪評判のぼんくら若社長が
名古屋の繫華街で殺された
違和感から真実を引き当てる
嵐呼ぶ女刑事の物語です
表紙の光る広場はオアシス21
背後に名古屋のテレビ塔がそびえ
裏表紙には名古屋城が鎮座している
中部圏民にはお馴染みの名古屋の
繁華街『栄』を舞台に事件は発生する
縫製工場のぼんくら若社長が
何者かに撲殺された
逮捕歴もある彼は日ごろから
素行が悪く容疑者は多数いる
そんななかで愛知県警の
台風女こと嵐山暁(あらしやま あき)の
違和感に触れるのがベトナムから来た
外国人技能実習生のマイさんでした
事件の以前に勤務先である
ぼんくらの工場から失踪し
現在は行方不明です
失踪直前にマイの彼氏と
殴り合いのケンカもしている
プーくん
何かあったに違いない
失踪したマイを追ううちに
明らかとなってゆく社会問題
いびつな外国人技能実習制度と
過酷な実習生の現状が描かれる
ケイチャン
でもホントにマイが犯人なのか?
勢いよく飛び出すような
暁さんの捜査が続く
違和感がピタリと当たり
事件が解明されていく過程が
心地よい
さてお話は中盤の頃から
その構図が明らかになってゆく
それが弱い者に付け込んで搾取する
豊かな者たちの姿でした
善意の産婦人科医の娘と母が登場します
マイを無償で助けたんだと言う娘母だが
暁の違和感がビンビンと反応する
・・おかしい、こいつらは何か
重要なことを隠している!
産婦人科医の言うことは
たしかに双方に利益となる
マイを助けることになるかも知れない
だけどやっぱりなにかが、おかしいんだ
強い者と弱い者は対等でない
割を食うのはいつも弱い者
ケイチャン
ラストシーンでいびつな救済を
喝破する暁の言葉が響きます
ここで被害者と加害者が
裏返るような気持ちがしました
制度に守られているけど
倫理的には間違っている
ケイチャン
どちらに正しさがあるのだろうか?
ミスリードの末に
芋づる式に浮かぶ真実が
ミステリーの醍醐味となる本作
ケイチャン
社会問題の提起もされて
読み応えある1冊でした
作品紹介(出版社より)
名古屋市栄の繁華街で男性の他殺体が発見される。被害者は縫製工場のひとり息子。素行が悪く逮捕歴もあり、あちこちから恨みを買っていたため容疑者も多い。捜査一課の暁(あき)は、被害者が以前、ベトナム人の技能実習生マイに強引に迫っていたことを知る。マイは数ヶ月前、「救世主」という謎の言葉を残し姿を消していた。その後の捜査でマイが隠していたとある秘密が判明。事件は意外な方向に転がり出す。
作品データ
タイトル:『救世主』
著者:水生大海
出版社:光文社
発売日:2024/6/26
作家紹介
水生大海(みずき・ひろみ)
三重県生れ、愛知県在住。
出版社勤務、漫画家を経て2005年、チュンソフト小説大賞(ミステリー/ホラー部門)銅賞受賞。
2008年、「罪人いずくにか」で島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作を受賞、翌年、『少女たちの羅針盤』に改題しデビュー。
2014年、「五度目の春のヒヨコ」で日本推理作家協会賞短編部門の候補となる。
水生大海の作品紹介
『少女たちの羅針盤』2009/7/9
『かいぶつのまち』2010/7/1
『最後のページをめくるまで』2022/6/16
『救世主』2024/6/26