ケイチャン
【2023年30冊目】
今回ご紹介する一冊は、
鈴木涼美 著
『グレイスレス』です。
もくじ
【感想】「信仰なき世界で、何を信じたらいいの?」
職業に貴賤はない・・
しかしそれはたてまえ
男性の欲望に捧げられた生贄、AV女優
その化粧を担当する女性から見た
歪まらざるを得ない職業の物語です
印象的な場面から
物語はスタートします
それは主人公の『私』の住む家から
十字架が取り外されるシーンです
アダルトビデオは男性の欲求が反映されます
凌辱されて喜ぶ女性が描かれる・・
いたぶられて、喜ぶ、なんて・・
そんな女性がいるはずない!
AVは男性の倒錯した性的ファンタジーなのだ
AV女優たちの
過酷な撮影現場が痛々しい
本文にこう書かれています
『彼女(AV女優)たちは、
心身と自尊心を手放さねばいけない』と
自分自身を殺すということですね
本文には書かれていないが
メイキャッパーの『私』は
2つの気持ちの間で
揺れ動いているようでした
この仕事を肯定するべきなのか?
それとも否定するべきなのか?
女性メイキャッパーの『私』は
加虐する製作者(男性)側のスタッフです
汗と涙と精液に濡れた顔を
化粧し直し、また被虐を受けて
美しくメイクが崩れるようにする
それが私の仕事なんだ・・
いっぽうで被虐を受けるのは
同性である女性です
日々確かに壊れゆく
AV女優たちと共にあって
私は私の仕事をしている
あなたはあなたの仕事をしている
それのどこが悪いの?
と、割り切れるはずもない
この仕事は悪なのだろうか!
でも需要があって供給がある
AV女優たちは高給をもらって
納得もしているはず
いったい何が悪いというのだ?
そんな中ひとりのAV女優が
ついに体を壊して引退することになる
ねえ、最後のAV撮影のメイクをしてよ、
ミヅキちゃん・・
初めて名前を呼ばれた『私』こと
主人公の聖月(ミヅキ)は
性的ファンタジーの登場人物ではない
ひとりの人間として彼女と向き合うのです
ああ、もう、
良いんだか悪いんだかわかんないが
ここで私も一区切りつけよう
彼女の『金玉蹴りAV』のメイクをして
いったん仕事を辞めるのだ
そして予定帳に書きこまれた
仕事を一件一件お断りして
物語は幕を閉じます・・
AV制作の現場というのは
強烈な世界なのでしょう
あり得ないことをしているのに
仕事というだけで存在を許される
『私』は大卒で古くも美しい家に住み
おしゃれな祖母と平穏に暮らしている
AVと日常生活のギャップが物凄い
これをいったいどう思い
何を感じれば正しいのか
まったくわからない
誰か正解を教えてくれよ!
もう誰も正解を教えてくれないのです
何故なら誰にも
正解なんてわからないからです
信じるものが
無くなってしまった
世界で生きる
僕たちの物語でした
あなたはファンタジーでなく
現実を見て生きていますか?
作品紹介(出版社より)
AV業界に生きる女の倫理観とは?
デビュー小説『ギフテッド』に続き、芥川賞候補に選ばれた鈴木涼美の第二作。主人公は、アダルトビデオ業界で化粧師(メイク)として働く聖月(みづき)。彼女が祖母と共に暮らすのは、森の中に佇む、意匠を凝らした西洋建築の家である。まさに「聖と俗」と言える対極の世界を舞台に、「性と生」のあわいを繊細に描いた新境地。
作品データ
タイトル:『グレイスレス』
著者:鈴木涼美
出版社:文藝春秋
発売日:2023/1/14
作家紹介
鈴木 涼美(すずき・すずみ)
1983年、東京都生まれ。 慶應義塾大学環境情報学部卒業、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。 大学在学中にAV女優としてデビューし、東京大学大学院修士課程修了後、日本経済新聞社に勤務。 東京本社地方部都庁担当、総務省記者クラブ、整理部などに所属。
著書に『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『おじさんメモリアル』『オンナの値段』『女がそんなことで喜ぶと思うなよ』、『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』、『すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない』など。近著に『非・絶滅男女図鑑』がある。
鈴木 涼美の作品紹介
『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』 2013/06/24
『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』 2014/11/26
『愛と子宮に花束を ~夜のオネエサンの母娘論~』 2017/05/25
『オンナの値段』 2017/12/08
『女がそんなことで喜ぶと思うなよ ~愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』 2019/06/05
『ニッポンのおじさん』 2021/04/21
『ギフテッド』 2022/07/12
『グレイスレス』2023/1/14