ケイチャン
【2022年60冊目】
今回ご紹介する一冊は、
葉真中顕著
『ロング・アフタヌーン』です。
もくじ
【感想】「私の人生は失敗であった」
テーマは男性優位な現代社会に対する女性の反抗です
静かに深く現状に絶望し、死を願う2人の女性を軸に物語は展開する
主人公の葛城梨帆(かつらぎ りほ)は編集者です
バツ1子なし、勤め先の出版社が小説部門から撤退し
鬱々としています
そんな彼女の下に届いた1つの原稿が届く
それはかつて梨帆が担当した、新人賞の最終候補に残った
志村多恵からの新作であった
ここから物語は梨帆の仕事と生活と
多恵の書いた小説のストーリーが
交互に展開されていきます
自らの失敗を認めることは、辛い作業です
しかもそれが自分の人生であったならば
絶望と同義になることでしょう
優秀に産まれつき、比較的に恵まれた人生を送っていた梨帆
大きな挫折をします、それが離婚
しかもその原因が自分が選びとったものでした
ああ、あの時堕胎せずに赤ちゃんを産んでいたら・・
自分の人生を優先させた選択に、深く悩みます
if・・あの時に別の選択をしていたら・・
と後悔することは誰にでもあることでしょう
しかし、それは後になって思うこと
しかも、ままならないのが自分の心
選択肢は少ないものだと思います
人生に行き詰まりを感じ、心が止まってしまう梨帆
そんな時来たのが志村多恵の原稿です
志村多恵の小説『犬を飼う』
新人賞の最終選考に残ったこの作品は
激しく男性を憎むものでした
そして新たに届いた原稿『長い午後』
その内容も男性優位な社会を憎むもの
しかも最も糾弾する対象が、自分の夫と息子であった
長くダラダラと続き、次第に翳ゆく午後のイメージ
それは倦怠、後悔、絶望といった負の感情を連想させる
陽が沈む前にいっそ終わらせてやろうか・・私の人生を!
志村多恵の小説は男性優位で女性の服従を無意識に強いる
この社会の姿を、むき出しにするチカラがあった
共感し多恵に連帯感を覚える梨帆
この作品を私が世に出すのだ!
失敗を認めればよい
そこから新たな一歩を踏み出す決意をする梨帆
自分の人生に真摯に向き合ったがゆえに
つまづいてしまった女性の再生の物語です
作品紹介(出版社より)
編集者の元に突然届いた原稿。その内容は彼女自身の忘れられない出来事とリンクしていて……。「逃げ切るまでが完全犯罪だよ」私たちのシスターフッドがここにある、著者渾身のミステリー
作品データ
タイトル:『ロング・アフタヌーン』
著者:葉真中顕
出版社:中央公論新社
発売日:2022/3/9
作家紹介
葉真中 顕(はまなか・あき)
1976年東京都生まれ。
2013年『ロスト・ケア』で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し作家デビュー。
2019年『凍てつく太陽』で大藪春彦賞および日本推理作家協会賞を受賞。
他の著書に『絶叫』『コクーン』『Blue』『そして、海の泡になる』などがある。
葉真中顕の作品紹介
『ロスト・ケア』(2013年2月)
『絶叫』(2014年10月)
『ブラック・ドッグ』(2016年6月)
『コクーン』(2016年10月)
『政治的に正しい警察小説』(2017年10月)
『凍てつく太陽』(2018年8月)
『W県警の悲劇』(2019年1月)
『Blue(ブルー)』(2019年4月)
『そして、海の泡になる』(2020年11月)
『灼熱』(2021年9月)
『ロング・アフタヌーン』(2022年3月)