【感想】『喜べ、幸いなる魂よ』佐藤亜紀|人でなしの女に人生を滅茶苦茶にされる!

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喜べ、幸いなる魂よ|佐藤亜紀

ケイチャン

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【2022年42冊目】

今回ご紹介する一冊は、

佐藤亜紀 著

『喜べ、幸いなる魂よ』です。

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【感想】『人でなしの女に人生を滅茶苦茶にされる!』

歴史小説

天才の女性、ヤネケ
平凡な男性、ヤン
2人は一瞬交差したのち
並行して生きることとなった

時代は18世紀、産業革命の前夜です
場所はフランドル地方の小都市シント・ヨリス
孤児となったヤンは、父の友人である商家に引き取られる
そこで彼が出会ったのは双子の姉、ヤネケです

『人でなしの女に人生を滅茶苦茶にされる!』

このヤネケという女性が物凄い!
好奇心旺盛で、科学経済天文学と興味が尽きない
合理的で計算高い、徹底的なエゴイストです

いっぽうヤンは普通の人
幼いころ家庭に恵まれなかったことからか
大きくなったら妻と子を得て
平々凡々と暮らそうと夢見ます

10代のなかごろになったヤネケはヤンに言う
セッ〇スしてみよう!と
好奇心旺盛なヤネケは繁殖とはどういうものか
試してみたかったのです
そしてある計画もあった・・

あっという間に妊娠したヤネケ
父は激怒し、秘密裏に出産するため
家から追い出される・・目論見どおりです
そしてヤネケは赤ちゃんを産み捨てて
家に帰らなかった

文中に言及はありませんが
ヤネケは当時の女性の役割に、あきらめを感じていたようです
男をたて、家を守り、育児をする・・そんな生活に

ここがヤネケの真骨頂!
冷徹に計算し、自分と他人の感情すら天秤にかけて
選んだ道が「自分は自分の人生を生きる」です
その為に親と子供とヤンから、一定の距離をとる必要がある

ヤネケが選んだのは女性だけのコミュニティ
半聖半俗の宗教団体『ベギン会』です
ここなら思う存分に勉強し、研究に明け暮れることが出来る!と

たまったもんではないのが、ヤン
いつかヤネケを妻に迎え、子供を引き取り、
温かい家庭を営むことを望んでいたのに・・
ヤネケにはそんなつもりが全くなかったのです

実直な努力家であるヤンは
当時でも今でも、理想的な男性と言えるでしょう
地道に働き、評価を得る
自分よりも他人に優しい、魅力的な人間
だが、ヤネケと出会ってしまったことが不幸だった

地道に生きるヤン
友を亡くし、家業を継ぎ
妻と子を得て、妻を亡くし
仕事が認められシント・ヨリスの市長となり
また妻と子を得て、また妻を亡くす
そんな人生が続く

他の女性と幸せな家庭を持っても
ヤンの心にはヤネケがいて
それが、苦しい

そして生み捨てた子供が帰って来た
革命が起こった、フランスの兵士たちを連れて
母であるヤネケの価値観を否定するために・・

不自由な時代に、自由に生きようとするヤネケと
時代と融和し、古い価値観を大切にするヤンが好対照です
互いに思い合っていながらも、一緒になれなかった2人
一度きりの人生だからこそ、選ぶことの出来ないものがある
そう感じました
人生は難しく・・そして素晴らしいですね

あなたは大切なものを捨ててでも
選びたい人生がありますか

作品紹介(出版社より)

天才でエゴイスト 誰も彼女には手が届かない

18世紀ベルギー、フランドル地方の小都市シント・ヨリス。ヤネケとヤンは亜麻を扱う商家で一緒に育てられた。ヤネケはヤンの子を産み落とすと、生涯単身を選んだ半聖半俗の女たちが住まう「ベギン会」に移り住む。彼女は数学、経済学、生物学など独自の研究に取り組み、ヤンの名で著作を発表し始める。ヤンはヤネケと家庭を築くことを願い続けるが、自立して暮らす彼女には手が届かない。やがてこの小都市にもフランス革命の余波が及ぼうとしていた――。女性であることの不自由をものともせず生きるヤネケと、変わりゆく時代を懸命に泳ぎ渡ろうとするヤン、ふたりの大きな愛の物語。

作品データ

タイトル:『喜べ、幸いなる魂よ』
著者:佐藤亜紀
出版社:KADOKAWA
発売日:2022/3/2

作家紹介

佐藤 亜紀(さとう・あき)

1962年新潟県に生まれる。
1991年『バルタザールの遍歴』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。
2003年『天使』で芸術選奨新人賞。
2008年『ミノタウロス』で吉川英治文学新人賞を受賞。

佐藤 亜紀の作品紹介

『バルタザールの遍歴』(1991/12/01)
『掠奪美術館』(1995/06/01)
『モンティニーの狼男爵』(1995/07/01)
『陽気な黙示録』(1996/08/27)
『外人術―佐藤亜紀の豪気で優雅な旅の手引き』(1997/03/01)
『1809』(1997/05/01)
『皆殺しブック・レヴュー―かくも雅かな書評鼎談』(1997/07/01)
『でも私は幽霊が怖い』(1999/07/01)
『ブーイングの作法』(1999/11/01)
『検察側の論告』(2000/03/01)
『中学生の教科書―今ここにいるということ』(2001/11/01)
『天使』(2002/11/01)
『鏡の影』(2003/11/01)
『戦争の法』(2003/11/01)
『雲雀』(2004/03/24)
『小説のストラテジー』(2006/09/01)
『ミノタウロス』(2007/05/11)
『激しく、速やかな死』(2009/06/25)
『醜聞の作法 (100周年書き下ろし)』(2010/12/21)
『金の仔牛』(2012/09/14)
『小説のタクティクス (単行本)』(2014/01/09)
『吸血鬼』(2016/01/26)
『スウィングしなけりゃ意味がない』(2017/03/02)
『黄金列車』(2019/10/31)
喜べ、幸いなる魂よ』(2022/03/02)

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