【本の感想】『ロブスター』篠田節子|賢者は衆愚に、背を向ける

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篠田節子『ロブスター』を読んだ感想と鰻丼

ケイチャン

ケイチャン

【2024年155冊目】

今回ご紹介する一冊は、

篠田節子 著

『ロブスター』です。

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【感想】「賢者は衆愚に、背を向ける」

現代小説

灼熱の砂漠で孤立して働く彼らは
現代の賢者なの?
ほんとうの幸いを探す
篠田版『星の王子さま』です

満天の砂漠で釣りをする、愉悦

ジャーナリストとして箔をつけるため
過酷な強制労働工場に潜入取材しよう!
一発逆転の勝負をかける三十路の女性
寿美佳(すみか)ちゃんが主人公です

かわいそうな夫を救い出して!

そう依頼してきたのはアメリカの高名な
発生生物学者クセナキス博士の妻です
博士は保守政権下で弾圧を受けてオーストラリアに
脱出したものの逮捕され、灼熱の砂漠で
強制労働に従事しているとのこと

こいつはチャンスだ!!

渡豪費用もたんまりいただけるし
博士を救出したら報酬も貰えちゃうし
ついでに強制労働工場の取材もすれば
有名ジャーナリストなれちゃうんじゃない?

こうしてオーストラリア中央部へと
砂嵐と摂氏60度の灼熱砂漠を越えて
ファイヤーヒル鉱山にたどり着いた
寿美佳ちゃんだが・・

いえいえ私は帰りません

と、クセナキス博士は言うのだ
一体なぜ博士はアメリカの妻の元へ
帰ることを拒むのだろうか・・

「賢者は衆愚に、背を向ける」

博士の言葉にとまどう寿美佳ちゃん
どういうことなのかしら?
だってここは陸の孤島
人も少ないし(3人しかいない)
娯楽もないし、家族もいない

そんな寿美佳ちゃんを
夜の砂漠へ誘うクセナキス博士
『ロブスターを釣ろう』
え!ここに海は、ないよ?

まずは蛇を捕まえる博士
なんとこれをぶつ切りにして
針に刺して釣り糸を垂れるのだ
そして釣れたのは、大きなサソリでした

ケイチャン

ケイチャン

ロブスターってサソリのことかよ!

だがこのサソリを炙って食べると
美味かったのです
星降る満天の夜空で釣りをする喜びに
寿美佳ちゃんは震えます

そして次の日、寿美佳ちゃんは博士に
鉱山の巨大機械を運転させてもらう
砂を削る確かな手応えに嬉々とし
思うがままに機械を操る万能感に
これまた寿美佳ちゃんは震えます

ケイチャン

ケイチャン

なんて楽しい

日本にいては決して味わえない
充実を味わい、自己肯定感が高まる
・・ここにいれば、私は必要とされる
気が付けばひと月の時間が流れていました

だが別れの時は近づいていた

時代が逆行したかのような
キリスト教原理主義者に研究を否定され
故国を追われることになったクセナキス博士
・・ポピュリズムの衆愚はもう、うんざりだ

自分の価値観しか信じない
他人を自分の基準に合わせ
はみ出る者を排除する
そんな世界に居たくない

そして博士はほんとうの幸いを
この地に見出し、ここで生涯を
終えるのでした

サン・テグジュペリの『星の王子さま』
へのオマージュを感じた本作

ケイチャン

ケイチャン

ほんとうの幸いとはなにか、と
考えさせられました

人の容姿がそれぞれのように
幸せのカタチもきっとそれぞれ
自分にとっての幸せとは何か、と
自分自身で真剣に考える必要がある

ケイチャン

ケイチャン

あなたにとっての幸せは
なんですか?

作品紹介(出版社より)

私は人生の終着点を見つけてしまった 生と死の尊厳に迫る優しく美しい一冊

おちこぼれの女性ジャーナリストが異国の砂漠の地で掴んだ、
自分しかできない仕事、そして、人間のほんとうの幸せとは

フリージャーナリストとしての活躍の道が拓けずくすぶっていた寿美佳(すみか)は、摂氏六十度を軽く超える砂漠の地で、鉱石を運ぶトラックに乗っていた。
ここはオーストラリアでも「デッドエンド」と呼ばれる地帯。この先の鉱山で、元引きこもりの日本人労働者や、海外の政治犯が強制労働に従事させられているという疑惑を聞きつけて、記事を書いて一山当てようと潜入取材に乗り込んだのだ。金がない寿美佳のスポンサーとなったのは、夫の研究者・クセナキス博士がここに閉じ込められていると訴える博士の夫人だった。
博士を救い出すという任務も帯びながら、命からがら苛酷な砂漠を越え現地にたどり着いた寿美佳だったが、そこで出会った博士をはじめとする3人の労働者が語ったのは、寿美佳が全く思いもよらない背景だった……。

ここは見捨てられた場所、そして、途方もなく自由な土地――
「他の場所では生きられなくても」、今、自分の身体が、能力が、拡張していく。

人生の本質や、生と死の尊厳を、外から判断できるのか。
ほんとうの幸せとは何かに迫る著者の真骨頂。

作品データ

タイトル:『ロブスター』
著者:篠田節子
出版社:KADOKAWA
発売日:2024/9/28

作家紹介

東京都生まれ。東京学芸大学卒。
1990年『絹の変容』で第三回小説すばる新人賞を受賞。
1997年『ゴサイタン―神の座―』で第十回山本周五郎賞受。
1997年『女たちのジハード』で第百十七回直木賞を受賞。
2009年『仮想儀礼』で第二十二回柴田錬三郎賞を受賞。

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篠田節子の作品

『 絹の変容 』(1993年8月)
『 神の座 ゴサインタン 』(2002年10月)
『 女たちのジハード 』(2000年1月)
『 仮想儀礼・上 』(2008年12月)
『 仮想儀礼・下 』(2011年5月)
『 長女たち 』(2014年2月)
『 ブラックボックス 』(2013年1月)
『 鏡の背面 』(2018年7月)
『 夏の災厄 』(1998年6月)
『 インドクリスタル 』(2014年12月)
『 弥勒 』(2001年10月)
『 夏の災厄 』(2015年2月)
『 聖域 』(2008年7月)
『 神鳥イビス 』(1996年10月)
『 銀婚式 』(2011年12月)
『 となりのセレブたち 』(2015年9月)
『 ハルモニア 』(2001年2月)
『 カノン 』(1999年4月)
『 長女たち 』(2017年9月)
『 田舎のポルシェ 』(2021年4月)
『 コミュニティ 』(2009年7月)
『 はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか 』(2011年7月)
『 冬の光 』(2015年11月)
『 竜と流木』 2016/05/25
『 「森の人(オランウータン)」が食べるブドウの味』 2017/02/27
『 鏡の背面』 2018/07/26
『 肖像彫刻家 2019/03/22
『 介護のうしろから「がん」が来た!』 2019/10/04
『 こうた、もどっておいで 時を経て、二〇二〇』 2020/12/01
『 田舎のポルシェ』 2021/04/15
失われた岬』 2021/10/29
『セカンドチャンス』 2022/06/29
ドゥルガーの島』 2023/08/18
ロブスター』2024/9/28

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