ケイチャン
【2024年57冊目】
今回ご紹介する一冊は、
角田光代 著
『方舟を燃やす』です。
もくじ
【感想】「間違いは信じたい真実を選ぶこと」
あなたが信じていることは
あなたを幸せにするのか?
情報過多の今に警鐘を鳴らす
現代のクロニクルです
信じる者は、呪われる
昭和生まれの2人の主人公の姿を
交互に描きながら物語は進みます
高度成長期からコロナ禍の令和まで
日本は大きく様変わりしてゆく
1967年生まれの柳原飛馬(ひうま)さん
鳥取で生まれ大学進学で上京し
東京都職員として働いています
バツ1単身の気ままな寮暮らし
しかし彼にはトラウマがありました
それが早世した母と
地域の英雄であった祖父です
洪水から村を守った祖父の逸話は
物語の鍵として作用します
もう1人の主人公は
望月不三子(ふみこ)さんです
専業主婦である彼女が願うのは
家族の幸せですが、その方法とは
玄米などの極端な自然食でした
僕の母も一時期、玄米食にハマった
ことがありましたが・・申し訳ない
あんまり美味しくなく、嫌いでした
白米に戻ったときは嬉しかったなあ
家族の健康のためにと
手の込んだ自然食の献立を並べるが
夫は食べず
娘は恨みを溜め込んでしまう
なんでこうなったんだろう?
物語は昭和時代で言う
いわゆる『普通の家庭』を持て
なかった2人の姿を描きながら
なにを信じるか選ぶことの難しさを
私たちに問いかけるのだ
不三子の姿に僕は打ちのめされました
家族のためにと・・選び取ったことが
家庭崩壊につながるという、残酷さよ!
哀れでなりませんでした
いっぽうで娘の気持ちも
すごくわかるんです
みんなと給食を囲む楽しみを奪われ
冷たく茶色い玄米弁当を
ひとりボソボソと食べる悲しさよ
(諸事情でお弁当持ちをされている方を
非難しているわけではありません)
そりゃ、恨むよ~!
誰かのためにと思うのは
飛馬さんも同じこと
ボランティア活動に熱中するあまり
奥さんは引かれて出て行ってしまう
ボランティアは良いことですが
誰かにスゴイと言われたい
偉いねと褒められたい
その気持ちに奥さんは敏感に
気が付いてしまう
このあたりの感情の機敏が
冷酷でした
心の奥底にある卑しさを
見せつけられます
最後になって明確になるのが
本作のテーマである
『信じる』
ということです
ノストラダムスの大予言は、外れてしまった
2000年問題も、なかった
自然食の成否は、わからない
コロナ禍の予言は、なかった
さもあり得そうな『信じること』が
ゴロゴロと転がっている今の時代
言っていることが、てんでばらばらな
神様がたくさんいるようです
でも何かを信じると、楽なんだ・・
そんな弱い人間の姿を
真摯に描き出す力作でした
戻ることのできない1度きりの
人生の大切さを僕は痛感しました
『方舟を燃やす』という
印象的なタイトルの意味も
読後にしっくりと入ってきました
自分ひとり生き残っても意味がない
他人のために生きてこその人生なんだ
生きる意味に悩み
人との距離感に苦しむ
あがいてもがくような本作
簡単に得られる人生の正解なんて
もう無いんですね
皆さんが信じていることは
はたして正解ですか?
作品紹介(出版社より)
口さけ女はいなかった。恐怖の大王は来なかった。噂はぜんぶデマだった。一方で大災害が町を破壊し、疫病が流行し、今も戦争が起き続けている。何でもいいから何かを信じないと、今日をやり過ごすことが出来ないよ――。飛馬と不三子、縁もゆかりもなかった二人の昭和平成コロナ禍を描き、「信じる」ことの意味を問いかける傑作長篇。
作品データ
タイトル:『方舟を燃やす』
著者:角田光代
出版社:新潮社
発売日:2024/2/29
作家紹介
角田 光代(かくた みつよ)
1967年神奈川県生れ。魚座。早稲田大学第一文学部卒業。
1990年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。
1996年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞受賞。
2003年『空中庭園』で婦人公論文芸賞、2005年『対岸の彼女』で直木賞受賞。
2006年「ロック母」で川端康成文学賞受賞。
2007年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞受賞。
2011年『ツリーハウス』で伊藤整文学賞受賞。
2012年『紙の月』で柴田錬三郎賞、『かなたの子』で泉鏡花文学賞受賞。
2014年『私のなかの彼女』で河合隼雄物語賞を受賞。
著書に『キッドナップ・ツアー』『愛がなんだ』『さがしもの』『くまちゃん』『空の拳』『平凡』『笹の舟で海をわたる』『坂の途中の家』など多数。
角田 光代の作品紹介
『幸福な遊戯』(1991年9月)
『ピンク・バス』(1993年8月)
『学校の青空』(1995年10月)
『まどろむ夜のUFO』(1996年1月)
『ぼくはきみのおにいさん』(1996年10月)
『ぼくとネモ号と彼女たち』(1997年9月)
『夜かかる虹』(1998年1月)
『キッドナップ・ツアー』(1998年11月)
『みどりの月』(1998年11月)
『東京ゲスト・ハウス』(1999年10月)
『真昼の花』(2000年1月)
『菊葉荘の幽霊たち』(2000年4月)
『あしたはうんと遠くへいこう』(2001年9月)
『だれかのいとしいひと』(2002年4月)
『エコノミカル・パレス』(2002年10月)
『空中庭園』(2002年11月)
『銀の鍵』(2003年3月)
『愛がなんだ』(2003年3月)
『ちいさな幸福』(2004年2月)
『トリップ』(2004年2月)
『太陽と毒ぐも』(2004年5月)
『庭の桜、隣の犬』(2004年9月)
『対岸の彼女』(2004年11月)
『人生ベストテン』(2005年3月)
『さがしもの』(2005年5月)
『Presents』(2005年11月)
『おやすみ、こわい夢を見ないように』(2006年1月)
『ドラママチ』(2006年6月)
『夜をゆく飛行機』(2006年7月)
『彼女のこんだて帖』(2006年9月)
『12星座の恋物語』(2006年10月)
『薄闇シルエット』(2006年11月)
『八日目の蝉』(2007年3月)
『ロック母』(2007年6月)
『予定日はジミー・ペイジ』(2007年9月)
『三面記事小説』(2007年9月)
『マザコン』(2007年11月)
『福袋』(2008年2月)
『三月の招待状』(2008年9月)
『森に眠る魚』(2008年12月)
『くまちゃん』(2009年3月)
『ひそやかな花園』(2010年7月)
『なくしたものたちの国』(2010年9月)
『ツリーハウス』(2010年10月)
『かなたの子』(2011年12月)
『曾根崎心中』(2012年1月)
『口紅のとき』(2012年1月)
『紙の月』(2012年3月)
『それもまたちいさな光』(2012年5月)
『月と雷』(2012年7月)
『空の拳』(2012年10月)
『私のなかの彼女』(2013年11月)
『平凡』(2014年5月)
『笹の舟で海をわたる』(2014年9月)
『おまえじゃなきゃだめなんだ』(2015年1月)
『坂の途中の家』(2016年1月)
『拳の先』(2016年3月)
『源氏物語 上』(2017年9月)
『私はあなたの記憶のなかに』(2018年3月)
『源氏物語 中』(2018年11月)
『源氏物語 下』(2020年2月)
『銀の夜』(2020年11月)
『タラント』(2022年2月)
『明日も一日きみを見てる』2023/2/10
『ゆうべの食卓』2023/2/15
『方舟を燃やす』2024/2/29