【感想】『浮遊』遠野遥|誰も本当の私に興味なんてないんでしょ

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遠野遥『浮遊』

ケイチャン

ケイチャン

【2023年34冊目】

今回ご紹介する一冊は、

遠野遥 著

『浮遊』です。

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【感想】「誰も本当の私に興味なんてないんでしょ」

高校1年生の少女を描く現代小説

家族と別れて暮らす、ふうか
同居するのは父親と同じくらいの
年齢の碧(あお)くん
はて、いったいどういうこと?
関係性が語られないまま
物語は進む・・

父親からの一方的な
長文メールが紹介されたり
亡き母親がホラーゲームが
好きだったと情報開示されるが
肝心なことはわかりません

そして気になる碧くん
アプリ開発業者の
CEOでお金持ち
お料理も出来る人だが
なぜ隠すようにJKと暮らしてるのか

不可解さが不気味・・

しかし主人公の、ふうかが
ぼんやりとしたイメージの女の子で
同級生に仲の良い友達が
いないことを悩んだり
歯並びを気にしたり
足の痣を心配したりと
至ってフツーで凡庸なのです

物語はふうかの日常と寄り添うように
ふうかがプレイするホラーゲームの
内容が語られていきます
それが
自分を探す幽霊のホラーゲームです

「誰も本当の私に興味なんてないんでしょ」

ざらりとした気持ち悪さ
どこか歪んでいる世界感
たしかに間違っているのに
これと指摘できないもどかしさ

本作の僕の印象です

結局、ふうかと碧くん
そして父の関係性は
最後まで明かされずに
物語は放り出されるように
終わってしまう

違和感だけが残る結末でした

何の説明もないので
自分で推測するしかないのですが
家出少女がパパ活男性と
一緒に暮らしているという
設定なのでしょうか

そんな中で印象に残ったのが
存在の軽さとしたたかさを
同時に持つような
ふうかの逞しさでした

ラストシーンで
おろおろとする
碧くんと対照的に
露天風呂でくつろぐ
ふうかの姿が描かれます

他者からの評価を気にする男と
自らの気持ちで満足できる女の
生きる力の差を見るようでした

何の説明もなく
解釈を委ねられる本作
ああでもなく
こうでもないと
後の尾を引く読後感でした

あなたは誰に
見られることなくとも
自分だけの感性で
生きていけますか?

作品紹介(出版社より)

高校生のふうかは、会社経営の男の家で柔らかいソファに座り、男の元恋人を象ったマネキンの下、夜毎ホラーゲームで悪霊たちから逃げ続け――。芥川賞受賞作『破局』を超える衝撃。モモコグミカンパニー(BiSH)、戦慄!
「恐怖」の概念を覆す衝撃作!
「読んでいる間、身体が透明になったりまた人間に戻ったりする。ゲームと現実、幽霊と人間、その境目の混沌を彷徨いながら、最後には、私は人間でいたいと思った。しかし、なぜか、遠野ワールドでは、幽霊の方が息をしやすそうなのだ。」

作品データ

タイトル:『浮遊』
著者:遠野遥
出版社:河出書房新社
発売日:2023/1/18

作家紹介

遠野遥(とおの・はるか)

1991年、神奈川県生まれ。
2019年『改良』で第56回文藝賞を受賞しデビュー。
2020年『破局』で第163回芥川龍之介賞を受賞。

遠野遥の作品紹介

『改良』(2019/11/14)
『破局』(2020/07/04)
教育 (2022/01/06)
浮遊』(2023/1/18)

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