【感想】『乱れる海よ』小手鞠るい|思想の迷路で狭い世界にはまり込んでいく

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乱れる海よ|小手鞠るい

ケイチャン

ケイチャン

【2022年168冊目】

今回ご紹介する一冊は、

小手鞠るい 著

『乱れる海よ』です。

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【感想】「思想の迷路で狭い世界にはまり込んでいく」

誰よりも献身的に人に尽くした彼は
なぜテルアビブの空港で銃を乱射したのか?
思行一致を目指した男の革命小説です

僕は学生の頃イスラエルに行ったことがあります
一緒にいた日本人が現地の人に
おまえレッドアーミーだろ?と冗談で言われて
うん、そうだよ!と彼も冗談で返しました

その瞬間に空気が凍り付きました

イスラエルの人々にとって
日本赤軍が起こした事件は
民族史に記載されるような
絶対に忘れることのできない
大事件であるからです

世の不公平を見逃せない

京都大学の学生であった
渡良瀬千尋(わたらせ ちひろ)は
セツルメント運動(大学生による貧民救済事業)に
献身的に取り込んでいた

若き正義感と情熱
特に女性や子供など弱き者に心を砕き
寄り添う優しい青年は
でも普通の学生だった

女性活動家の沢開風里(さわひらき ふうり)
彼女に出会うまでは

パレスチナに行かない?
そう言われて迷わずに
行くと言う千尋
かくして片道切符の革命の旅が始まるのだ

「思想の迷路で狭い世界にはまり込んでいく」

幾度も訪れる、戻る機会
しかし戻れないのは
思い込みなのか?
自ら狭く暗い沼に
入り込んでいくようです

パレスチナでの軍事訓練と
穏やかで質素な生活の果てに
とうとうその時が来てしまう

なぜ無関係な人々を殺してしまったのか?

1970年代は学生運動の熱狂が
最高潮に達した頃のようです
その結末としての
テルアビブ空港銃乱射事件や
山岳ベース事件は
大多数の運動家にとって
不本意であったと思います

どうしてこうなったのか?

日本赤軍の奥平剛士をモデルとした本作
今は学生運動の熱気は冷えてしまい
不平等と経済格差はさらに広がっている
彼らの目指した革命は失われてしまいました

彼らが起こした事件は
残照のように歴史に残っている
それは正義ではなく
蛮勇の狂気なのでしょう

熱気は去り
冷たい現実だけが残ったこの世界で
彼らは過去に咲いた
あだ花のように感じました

しかし本書の終わりにある
『千尋の志(こころざし)は残った』
という一文に僕は混乱してしまいました
無差別テロにこころざしがあるだって!?

わからない
人の感じ方なんて
ほんとにわからないと
最後にそう思いました

あなたは親しい人が
テロに巻き込まれてもなお
その気高いこころざしに
賛同することができますか?

作品紹介(出版社より)

「生まれてきたからにはこれが仕事だと言えるような何かがあるはずだ」──。
アメリカ在住の日本人ノンフィクションライターが、引っ越し作業中にふと手にした一冊の本。それは50年前の世界的事件を追うことになる迷路の入り口だった。半世紀前の1972年5月30日、イスラエルのテルアビブ空港で起こった乱射テロ事件。起こしたのは3人の日本の若者たちだった。彼らはなぜ遠い異国の地でそんな事件を起こしたのか。それは崇高な使命感からだったのか、それとも別の残虐非道な目的からだったのか。そして、事件の首謀者・渡良瀬千尋が短い生涯で遺したものとは。
正義と使命感に駆られた人間の「光と影」をリアルに描いた、文筆生活40周年、新境地を拓く著者渾身の長篇小説。

作品データ

タイトル:『乱れる海よ』
著者:小手鞠るい
出版社:平凡社
発売日:2022/10/21

作家紹介

小手鞠るい(こでまり・るい)

1956年岡山県生れ。同志社大学法学部卒業。
1981年「詩とメルヘン」賞受賞。
1993年「海燕」新人文学賞受賞。
2005年『欲しいのは、あなただけ』で島清恋愛文学賞受賞。
2009年絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん』(絵/北見葉胡)でボローニャ国際児童図書賞を受賞。
主な著書に、小説『美しい心臓』『アップルソング』『君が笑えば』『テルアビブの犬』『星ちりばめたる旗』、エッセイ集『ウッドストックの森の日々』『愛しの猫プリン』『優しいライオン』など多数。アメリカ、ニューヨーク州在住。

小手鞠るいの作品紹介

『欲しいのは、あなただけ』2004/09/18
『ルウとリンデン 旅とおるすばん』 2008/09/30
『美しい心臓』2013/05/22
『アップルソング』2014/05/12
『君が笑えば』2015/05/22
『テルアビブの犬』2015/09/09
『星ちりばめたる旗』2017/09/14
『情事と事情』2022/05/25
『母の国、父の国』2022/07/23
乱れる海よ』2022/10/21
『命のスケッチブック』2022/11/10
・・・など多数


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