純文学

【感想】『幽玄F』佐藤究|全てを捨てて、もう一度夢を叶える

幽玄F|佐藤究
ケイチャン(サカキ ケイ)

ケイチャン

ケイチャン

【2023年161冊目】

今回ご紹介する一冊は、

佐藤究

『幽玄F』です。

【感想】「全てを捨てて、もう一度夢を叶える」

パイロット小説

戦闘機に乗る以外の夢はない
しかし人生の半ばで夢が覚めてしまったら
どう生きたらいいんだろう?
夢破れたその後を描く物語です

俺の人生はこれしかない!

みなさんは子供の頃に
夢見た職業についていますか?
僕はそもそも成りたい仕事が
なかったですねえ・・
子供の頃の夢を叶えた方は
今、幸せですか?

幼い頃から飛行機に憧れ
高校生で戦闘機パイロットに
なることを決意する透(とおる)
念願の自衛隊航空学生となるのだ

物語の前半は
透がパイロットとして成長する
過程を描きます
そしてついに
最新鋭第5世代型戦闘機
F-35を駆り、自他ともに認められる
エースパイロットとなるのでした

しかし挫折は突然やってくる
訓練飛行で亜音速を超えると
必ずやってくる、窒息感
戦闘機乗りとして致命的なことだ
もう降りるしかない・・

自分の全てであった
戦闘機のコックピットから
はじき出された透は
タイ、バングラデシュと
流されるように彷徨う

だが運命はもう一度
透をコックピットへと誘うのだ
ジャングルのど真ん中に佇む
F-35b
あいつともう一度
空を飛ぶんだ!

「全てを捨てて、もう一度夢を叶える」

*注意、以下は強烈なネタバレとなります!!

ジャングルに不時着したF-35bを
透は全財産を使って修理する
そして飛び立つ、透とF-35b
思うままに空を飛ぶ彼らを
タイ空軍機が撃墜するのでした

ええ!もう?何で撃ち落されるまで
飛び回るんだよ~
と、訳が分からない結末に
僕は混乱しました

がストーリーを反芻するうちに
透はこの最後のフライトに
自分の全てを
命すら支払ったのだと理解しました

そう彼はもう地上に戻るつもりは
なかったのです

夢の代償は自分の命
なんという美学でしょうか!
この恐ろしい結末には
慄然とせざるを得ません

作中にたびたび三島由紀夫の
オマージュがあらわれるのも
この結末の為だったのでしょうか

命を捨てた透は
その代わりに
重力のくびきから解放され
自由に空を飛ぶ権利を得たのだ
と僕は感じました

自分の夢に殉じた
男の姿を描いた本作
強烈な結末のインパクトがしばらく
尾を引いてしまいそうです

作品紹介(出版社より)

空と、血と。――空を支配する重力・Gに取り憑かれ、戦闘機F35-Bを操る航空宇宙自衛隊員・易永透。日本の戦後、そして世界の現在を問う、直木賞受賞第一作にして超弩級の著者最高傑作。

■絶賛の声、続々!

時間も忘れて一気読み。すごい。空が透を惹きつけたように、この小説は読者の心を掴む。何かを追い求める人間の在り方よ。
ーー逢坂冬馬]

8ページの人名を見て「ひっ」と声が出た。かの先行作の円環を、人間の肉体が耐え得る最高速度で、虚天に移し替える。
ーー飛浩隆

自由に空を飛べない国、日本の悲劇を機械の官能で描き出す。ぼくらは蛇の呪いを解けるのか。
――東浩紀

天才パイロットが戦闘機Fと共に辿る、数奇な運命とは――。
「ただ私は戦闘機という機械に乗りたかっただけで、その戦闘機の飛ぶ空が〈護国の空〉だったのです」
構想5年、直木賞・山本周五郎賞W受賞の『テスカトリポカ』から2年――。
日本の戦後精神の支柱「三島由紀夫」に挑んだ、佐藤究・圧巻の第4長篇。

作品データ

タイトル:『幽玄F』
著者:佐藤究
出版社:河出書房新社
発売日:2023/10/19

作家紹介

佐藤究(さとう・きわむ)

77年福岡県生まれ。
2016年『QJKJQ』で江戸川乱歩賞を受賞。
『Ank: a mirroring ape』で大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞を、『テスカトリポカ』で山本周五郎賞、直木賞を受賞。

佐藤究の作品紹介

『QJKJQ』 2016/08/09
『Ank: a mirroring ape』 2017/08/23
『テスカトリポカ』 2021/02/19
『爆発物処理班の遭遇したスピン』 2022/06/29
幽玄F』 2023/10/19

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サラリーマン読書家
年間150冊以上の本(主に小説)を読む、名古屋で働くサラリーマン【ケイチャン】です。食べることが大好きな僕が撮影している「本のある日常風景」と共に、本の紹介と感想のブログをお楽しみください!オススメの本は?この本気になるけど面白い?…など、読む本に迷った方への参考になれば幸いです。好きな言葉は「花には水を、人には愛を!」【ケイチャンブックス】よろしくお願いします!一緒に読書を楽しみましょう!!
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