ケイチャン
【2023年151冊目】
今回ご紹介する一冊は、
中村文則 著
『列』です。
もくじ
【感想】「私たちはサルより幸福なのか?」
なぜ僕たちは行列を見ると
並ばずにはいられないのか?
薄暗い不吉な世界で佇む
自分を見失った人の物語です
なぜ並ぶのか?そこに列があるからだ!
例えばレジ待ちで
隣の列より早く進むと
嬉しいですね
例えば高速道路の渋滞で
自分の列だけ進まないと
イライラしちゃいますよね
結果が多少前後するだけなのに
どうしてこう思ってしまうのか?
自分の心の狭さにガッカリしますね
さて物語は
どことも知れない場所で
列に並ぶ人々の描写から
スタートします
みんなイライラしている
一歩でも前に行きたい
前の人に居なくなってもらいたい
と、自分勝手な思いが綴られます
暗いな!
何のために並んでいるのか?
その理由は、誰も知らない
しかし列に並ばざるを得ない
だって1人で離れたら
不安でしょ?
第2部から描かれるのは
列に並ぶ前の主人公の物語です
ニホンザルの研究をする、私
身分は臨時雇用のまま
早く論文が評価されて
准教授になりたいっ!
ニホンザルの生態が語られますが
それは私たち人類を映す鏡として
作用します
他人の評価が気になり
同僚や友人と自分を比較し
なんでも比べずにはいられない
ニンゲンたち
さらにチンパンジーやボノボと
より人類に近い種族とも
ニンゲンを比較する
果たして我々は、他の類人猿よりも
幸せなのだろうか?
列に並ぶ、という行為から
我々の幸福を探る本作
示唆に富み、気が付かなかった
視点を与えてくれます
誰しも集団の中では
ストレスを感じるもの
でも1人ではやっていけない
ジレンマの中で生きています
第3章の私は
罪を犯したために
罰として地獄をさまよう
亡者のように思えました
比べることは罪なのか
ひいては
知性とは罪なのかと
難題を投げかける本作
でももう僕らは
サルのように自然の中で
一人で気ままに生きるなんて
やっていけませんよね
あなたの並ぶ列の先には
何が待っていますか?
作品紹介(出版社より)
だれも列からは逃れられない――。『銃』や『掏摸』『教団X』につらなる……中村文則の最高傑作誕生!
「君だって、列に並びたいから、並んでたんだろ?」
ある動物の研究者である「私」はいつのまにか「列」に並んでいた――。
先が見えず、最後尾も見えない。だれもが互いを疑い、時に軽蔑し、羨んでいる。
この現実に生きる私達に救いは訪れるのだろうか。「あらゆるところに、ただ列が溢れているだけだ。何かの競争や比較から離れれば、今度はゆとりや心の平安の、競争や比較が始まることになる。私達はそうやって、互いを常に苦しめ続ける」(本文より)
作品データ
タイトル:『列』
著者:中村文則
出版社:講談社
発売日:2023/10/5
作家紹介
中村 文則 (なかむら・ふみのり)
1977年愛知県生まれ。福島大学卒業。
2002年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。
2004年『遮光』で野間文芸新人賞受賞。
2005年『土の中の子供』で芥川賞受賞。
2010年『掏摸<スリ>』で大江健三郎賞を受賞。
『掏摸<スリ>』の英訳が米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」で2015年の年間ベスト10小説に選ばれる。
2014年、米国のDavid L. Goodis賞を受賞。
2016年『私の消滅』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞など。
他の著書に『何もかも憂鬱な夜に』『去年の冬、きみと別れ』『教団X』『あなたが消えた夜に』『R帝国』『カード師』など多数。エッセイ集に『自由思考』、対談集に『自由対談』がある。
中村 文則の作品紹介
『銃』 2003/03/01
『遮光』 2004/07/01
『土の中の子供』 2005/07/26
『悪意の手記』 2005/08/30
『最後の命』 2007/06/12
『何もかも憂鬱な夜に』 2009/03/05
『世界の果て』 2009/05/14
『掏摸(スリ)』 2009/10/10
『悪と仮面のルール (100周年書き下ろし)』 2010/06/30
『王国』 2011/10/14
『迷宮』 2012/06/29
『惑いの森 ~50ストーリーズ~』 2012/09/21
『去年の冬、きみと別れ』 2013/09/26
『A』 2014/07/14
『教団X 』2014/12/15
『あなたが消えた夜に』 2015/05/16
『きみに贈る本』 2016/05/07
『私の消滅 2』016/06/18
『R帝国』 2017/08/18
『その先の道に消える』 2018/10/05
『自由思考』 2019/07/05
『逃亡者』 2020/04/16
『列』 2023/10/05