ケイチャン
【2023年31冊目】
今回ご紹介する一冊は、
武田惇志 伊藤亜衣 著
『ある行旅死亡人の物語』です。
もくじ
【感想】「1人の人生を理解する困難さよ!」
行旅死亡人の字面を見ると
行き倒れで死んだ人?と思いますが
身元不明の方をまとめてこう呼びます
年間1,000人程度いるそうです
多いのか少ないのか
ちょっと僕には判断がつきません
古いアパートで亡くなった
ひとりの老婆
彼女が残したもの
それが現金3千万円と
数々の謎です
現ナマさんぜんまんえん!
それは遠い親戚が遺産目当てで
うようよと寄ってきそうなものだが
・・誰も出てこない
それどころか
彼女を知る者は誰もおらず
彼女を特定する物も無い
これはどういうことなのか?
本書はこの行旅死亡人を特定すべく
共同通信社の2人の記者が
か細い手がかりを追い
ついに身元を突き止める過程が
描かれていきます
死亡した女性は
身元を探られることを
拒否するかのように
孤独に生きていました
保険証も持たず
それどころか大事故をしたのに
労災認定をも拒否する徹底ぶり
彼女を特定する遺品は無い
あきらかに、おかしいだろう?
警察すら諦めた身元の特定を
記者の視点から丁寧に辿っていく
この過程が実にドキドキさせる
ノンフィクションゆえの迫力に
満ちています
そしてとうとう身元を突き止めるのだが
どうして身元を隠して生きてきたのか?
という謎が解けない・・
小説ならば
実はこれがこうで
そういう理由なの!
と語られるのでしょうが
現実はそうはいきません
欠けたピースがたくさんある
ジグソーパズルのような結末に
これが現実の限界なのだなあ
と思いました
ひとりの人間を理解する
難しさを感じるとともに
ひとりの人生の
奥深さを感じる
そんな力作でした
あなたは何を思って生きてきたの?
その問いに答える人は
もういないんだ・・
作品紹介(出版社より)
現金3400万円を残して孤独死した身元不明の女性、
あなたは一体誰ですか?はじまりは、たった数行の死亡記事だった。警察も探偵もたどり着けなかった真実へ――。
「名もなき人」の半生を追った、記者たちの執念のルポルタージュ。ウェブ配信後たちまち1200万PVを獲得した話題の記事がついに書籍化!
2020年4月。兵庫県尼崎市のとあるアパートで、女性が孤独死した。
現金3400万円、星形マークのペンダント、数十枚の写真、珍しい姓を刻んだ印鑑……。記者二人が、残されたわずかな手がかりをもとに、身元調査に乗り出す。舞台は尼崎から広島へ。たどり着いた地で記者たちが見つけた「千津子さん」の真実とは?「行旅死亡人」が本当の名前と半生を取り戻すまでを描いた圧倒的ノンフィクション。
作品データ
タイトル:『ある行旅死亡人の物語』
著者:共同通信大阪社会部 武田 惇志 伊藤 亜衣
出版社:毎日新聞出版
発売日:2022/11/29
作家紹介
武田 惇志(たけだ・あつし)
1990年生まれ、名古屋市出身。京都大学大学院人間・環境学研究科修了。
2015年、共同通信社に入社。
横浜支局、徳島支局を経て2018年より大阪社会部
伊藤 亜衣(いとう・あい)
1990年生まれ、名古屋市出身。 早稲田大学大学院政治学研究科修了。
2016年、共同通信社に入社。 青森支局を経て2018年より大阪社会部。