短編

【本の感想】『世界99 下』村田沙耶香|わたしは白痴になりたい

村田沙耶香『世界99 下』と鳩サブレ
ケイチャン(サカキ ケイ)

【2025年60冊目】

今回ご紹介する一冊は、

村田沙耶香 著

『世界99 下』 です。

【感想】「わたしは白痴になりたい」

ディストピア小説

この世界は恐ろしい・・
不平等で不確実な世界で傷つき
究極の安寧を求める人々を描く
村田沙耶香版、人類補完計画です

狂気の儀式が、始まる

ウエガイコクに憧れ
シタガイコクの人を蔑み
すっかり元気をなくしてしまった
近未来の(おそらくは)日本

上巻で愛玩動物、ピョコルンの正体が発覚し
そのあまりに衝撃的な事実から人々は震撼し
でもそれを案外すんなりと許容してしまい
世界はダラダラと続いているところから
下巻はスタートします

価値観なんて脆いもの

人に恋愛が、なくなった
人が子供を、産まなくなった
愛も繁殖もみんな
ピョコルンが請け負います!

人間の価値が無くなった世界で
人間性ってものはもう不要なのか?

「わたしは白痴になりたい」

49才になった空子(そらこ)さん
未だ世界に傷つけられ続け
年を取ったぶんすっかりと
消耗しています

ただ傷つかないために生きている

そんな生き方にNO!と叫び続けるのが
同居人の白藤(しらふじ)さんです
自分が正しいと思う倫理観を守り
結果、他人と世界とに爪弾きにされています

でもそれは価値観をアップデートしていないだけじゃないの?

自分がない、空子と
自分がある、白藤さんの対比が
絶望的な断絶を表わしています

そして空子はあっさりと流されるように
究極の決断をしてしまう・・

*(注意!)以下、物語の核心的なネタバレがあります!!

自分の命を捨てて
自分の身体をピョコルンに捧げる
ピョコルン化手術を決意する空子さん
下巻の大半は生きることを辞めた
彼女の終活のようすが描かれるのです

もう誰かに使われるのは、疲れてしまったんです・・

ほとんどなんの感傷も後悔もなく
人間を辞める決意をする、空子さん
人間に価値なんてないよ、という
虚無が恐ろしい

ピョコルン化手術を受ける1万人の人々
それを見守る大勢の見学者たちの中に
白藤さんの姿があった
かつての親友がバラバラに切り刻まれる
ようすを見て何を思うのか・・

絶望しかないでしょう

エンディングではピョコルンとなった空子が
平穏で幸せそうな白藤さんの子供らの家庭で
飼われるようすを描いて幕を閉じます
・・この絶望境で僕は何を思えばいいのか?

でも何が一番怖いかというと
村田沙耶香が描くこの絶望世界が
僕らの住む現代の日本を連想させ
この国の行先を暗示させることです

心の安寧のために、白痴になろうよ!

そう言って、狂ったように笑う声が聞こえてきそうな
救いのない物語でした

狂才、村田沙耶香が描く
恐怖のディストピア

あなたならこの本を読んで何を思いますか?

作品紹介(出版社より)

私たち、ピョコルンに、全部捨てられるようになりましたよね。
性欲を。出産を。育児を。介護を。人生の時間を食いつぶす、あらゆる雑務を。

14年前、「リセット」を経験した人類は混乱の最中にあった。
しかしラロロリン人の考えた「人間リサイクルシステム」がうまく機能し、やがて社会は再生を迎える。
そして49歳になった空子は「クリーンな人」として、美しく優しい世界を生きている。生まれ育った街「クリーン・タウン」の実家に戻り、同級生の白藤遥とその娘・波とともに。
ようやく訪れた穏やかな社会の中心には、さらなる変貌を遂げたピョコルンがいた。

村田沙耶香渾身の大長編、ここに完結。
都合の良い「道具」・ピョコルンを生み出した果てに、人類が到った極地とは――。

作品データ

タイトル:『世界99 下』
著者:村田沙耶香
出版社:集英社
発売日:2025/3/5

作家紹介

村田 沙耶香(むらた・さやか)

1979年千葉県生れ。玉川大学文学部芸術文化学科卒。
2003年「授乳」で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)受賞。
2009年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞受賞。
2013年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島賞受賞。
2016年「コンビニ人間」で芥川賞受賞。
著書に『マウス』『星が吸う水』『ハコブネ』『タダイマトビラ』『殺人出産』『消滅世界』『生命式』『変半身』『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

村田沙耶香の作品紹介

『授乳』(2005年3月)
『マウス』(2008年3月)
『ギンイロノウタ』(2008年10月)
『星が吸う水』(2010年2月)
『ハコブネ』(2011年11月)
『タダイマトビラ』(2012年3月)
『しろいろの街の、その骨の体温の』(2012年9月)
『殺人出産』(2014年7月)
『消滅世界』(2015年12月)
『コンビニ人間』(2016年7月)
『地球星人』(2018年8月)
『生命式』(2019年10月)
『変半身(かわりみ)』(2019年11月)
『丸の内魔法少女ミラクリーナ』(2020年2月)
信仰』(2022年6月)
世界99 上』2025/3/5
世界99 下』2025/3/5

Xからの読者コメントをお待ちしています。
ブログ更新の励みになります!
ABOUT ME
ケイチャン
ケイチャン
サラリーマン読書家
年間150冊以上の本(主に小説)を読む、名古屋で働くサラリーマン【ケイチャン】です。食べることが大好きな僕が撮影している「本のある日常風景」と共に、本の紹介と感想のブログをお楽しみください!オススメの本は?この本気になるけど面白い?…など、読む本に迷った方への参考になれば幸いです。好きな言葉は「花には水を、人には愛を!」【ケイチャンブックス】よろしくお願いします!一緒に読書を楽しみましょう!!
Recommend
こちらの本もオススメです
記事URLをコピーしました