【感想】『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』河野啓|タロットカードの愚者

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デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場|河野啓

ケイチャン

ケイチャン

【2022年5冊目】

今回ご紹介する一冊は、

河野啓 著

『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』です。

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【感想】「タロットカードの愚者」

開高健ノンフィクション賞

登山家、栗城史多(くりき ふみかず)
七大陸最高峰単独無酸素登頂を謳い
最後のエベレストで35歳という若さで
滑落死した彼を追うノンフィクション作品です

「タロットカードの愚者」
僕が浮かべた栗城史多の印象です

派手な衣装を着て
上を見て歩く若者
正位置では
型にはまらない・自由・天真爛漫・発想力
などの意味があります

しかしカードをよく見てみると
派手な衣装はピエロのようなつぎはぎ
歩く足元は崖の上
逆位置の意味は
軽率・わがまま・焦り、となります

トランプのジョーカーの
原型いわれる、愚者
若さゆえの蛮勇を表している・・
そう、栗城史多のような!

その言動ゆえ
毀誉褒貶のある栗城史多

僕がまず驚いたのは
そのキャリアの浅さです
え!?2年やそこらで
登山やれちゃうの?

注目され賞賛され
インターネット配信を始め
時代の寵児となってゆく
栗城史多に立ちふさがったのは

人と山です

派手なパフォーマンスと
誇大な言動に反発する人
しだいに多くなる
SNSでアンチコメントする人

そして
何度挑戦しても
届かない
エベレスト登頂

作者の河野啓は
テレビディレクターとして
登山家、栗城史多を
プロデュースしてきた1人です

しだいに誇張される栗城史多の
言動と演出に違和感を覚える
それはもうエベレストを舞台に
繰り広げられる
テレビショーではないか?

神聖で孤高であるべき登山
いっぽうそれは
金を生むビジネスでもある
聖と俗の相克です

こんなこと書いていいのか?
それは7度目のエベレスト敗退
で負った凍傷についてです

栗城史多はこの凍傷で
指9本を失う
しかし、凍傷の箇所が
そろい過ぎている
そう、まるで
指だし手袋で
雪の中に手を突っ込んで
自ら凍傷を負ったかのように!

これが本当なら
実に厳しいことです
栄誉の負傷を
自ら演出した代償が
指9本とは・・

でも間違いなら
死した栗城史多を
侮辱することでもある

そして死した栗城史多は
もう反論できない・・

死体を鞭打つかのように
栗城史多を暴いてゆく
本作ですが
逆にそれは
必死に生き、戦った
一人の人の生きざまを
描ききったものでもあります

文字どうり
自らの命を懸けて
高みに挑んた栗城史多・・
実に人間的であると思います

終わりにかけて
栗城史多に関わった人たちの
インタビューが綴られます
それぞれ違う印象を語るのに
驚きます

最後に作者の思いが語られます
それはちょっと意地悪な子が
かつての恋人に宛てたラブレターのよう
『ねえ、あなたはズルイ人だったね、
けど私は嫌いじゃなかった』
僕はそんな風に思いました

作品紹介(出版社より)

2020年 第18回 開高健ノンフィクション賞受賞作。

2021年 Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞、ノミネート。

両手の指9本を失いながら“七大陸最高峰単独無酸素”登頂を目指した登山家・栗城史多(くりき のぶかず)氏。エベレスト登頂をインターネットで生中継することを掲げ、SNS時代の寵児と称賛を受けた。しかし、8度目の挑戦となった2018年5月21日、滑落死。35歳だった。

彼はなぜ凍傷で指を失ったあともエベレストに挑み続けたのか?
最後の挑戦に、登れるはずのない最難関のルートを選んだ理由は何だったのか?
滑落死は本当に事故だったのか? そして、彼は何者だったのか。
謎多き人気クライマーの心の内を、綿密な取材で解き明かす。

作品データ

タイトル:『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』
著者:河野啓
出版社:集英社
発売日:2020/11/26

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作家紹介

河野 啓(こうの・さとし)

1963年愛媛県生まれ。北海道大学法学部卒業。
1987年北海道放送入社。ディレクターとして、ドキュメンタリー、ドラマ、情報番組などを制作。
高校中退者や不登校の生徒を受け入れる北星学園余市高校を取材したシリーズ番組『学校とは何か?』で放送文化基金賞本賞受賞。『ツッパリ教師の卒業式』で日本民間放送連盟賞を受賞。
著書『北緯43度の雪 もうひとつの中国とオリンピック』で第18回小学館ノンフィクション大賞、第23回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。

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河野啓の作品紹介

『よみがえる高校 ツッパリが泣いた! 落ちこぼれが笑った!』(2000年4月)
『北緯43度の雪 もうひとつの中国とオリンピック』(2012年1月)
『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場 』(2020年11月)

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