【本の感想】『焦げついた影』カミーラ・シャムジー|ただ生き抜くだけで、いいじゃないか

【2025年94冊目】
今回ご紹介する一冊は、
カミーラ・シャムジー 著
『焦げついた影』です。
【本の感想】ただ生き抜くだけで、いいじゃないか」
長崎原爆投下でドイツ人の許婚を失った寛子は
イギリス統治下のインド・デリーを訪れる・・
愛する人を亡くし、故郷を喪失した人々の姿を
パキスタン系イギリス人作家が描く物語です

この本を読んでいた今年のお盆頃はちょうど戦後80年にあたり
第二次世界大戦の特集が組まれていました
敗戦からの戦後を経験した人たちの目には今の世の中はどう映っているのでしょうか?
以下、簡単なあらすじです
1945年8月9日、長崎に原子爆弾が落ちる
外国語教師だった寛子はドイツ人の
コンラッドからプロポーズ受ける
・・戦争はいつ終わるのだろう
その日、長崎は被爆し
寛子は大切な人を失う
1947年 デリーでの出会い
イギリス人弁護士に嫁いだコンラッドの
姉に会うためにインドを訪れる、寛子
そこで出会ったのが、彼女の旦那の使用人
美貌の秀才でイスラム教徒のサジェットでした
だが混乱した時代が2人を結びつける
大英帝国の植民地支配が瓦解し
インド・パキスタン分離独立に揺れるなか
2人は結ばれるのだ
1982年 ソ連アフガニスタン侵攻
寛子とサジェットの息子ラザは悩んでいた
大学受験、異性との恋、そして自らのアイデンティティ
そんな中、偶然出会ったアフガニスタン人の少年と
ソ連軍の抵抗勢力のキャンプ地へ向かうのだ
2001~2002年 9・11後のアメリカ
コンラッドの姉の子、ハリーと共に
アメリカの民間軍事会社ではたらくラザ
しかし危険地域での職務中にハリーは殺され
誤解からラザは追われることとなる
失い続ける運命の中で
寛子やラザたちの
安寧の場所は
どこにあるのだろうか・・

イギリス人が書く日本の被爆者がどう描かれているか
興味を持ち本書を手に取りましたが
・・素晴らしい物語でした!
寛子の家族と
コンラッドの姉の子と孫
2つの異なる出自を持つ
家系の交流が綴られる
被爆経験から逃れるために
日本を捨てた、寛子
インド・パキスタン分離の混乱で
愛する故郷のデリーを追われる、サジェット

縁もゆかりもないパキスタンのカラチで
しかしたくましく生きる様子が眩しいです
9・11のアメリカ同時多発テロで
燃え上がったのがイスラムフォビア
(イスラム教徒恐怖症)です
慎重に積上げた積み木をぶち壊す
ような結末が、辛い

愛する人を失い故郷を喪失した異邦人の悲哀と
たくましさを感じる傑作でした

さて私事ですが、僕の長男が来月初めての1人旅に出る予定です
インドへ!!
彼が何を感じて帰ってくるのかとても楽しみです

ケイチャン
と同時に
不安だ~!!
息子よどうか無事に
帰ってこーい
作品紹介(出版社より)
アニスフィールド・ウルフ図書賞受賞の文芸大作
長崎への原爆投下でドイツ人の許婚を失った寛子は、戦後、彼の異母姉を頼って単身インドのデリーに渡る。インド・パキスタン分離独立、ソ連のアフガニスタン侵攻、2001年同時多発テロ――激動の現代史に翻弄された日本人女性の生の軌跡を描く圧巻の文芸大作。
作品データ
タイトル:『焦げついた影』
著者:カミーラ・シャムジー
出版社:早川書房
発売日:2025/7/3
作家紹介
カミーラ・シャムジー Kamila Shamsie
1973年、パキスタンのカラチ生まれ。
米国ハミルトン大学創作科卒業後、マサチューセッツ州立大学アマースト校でファインアート修士号を取得。
1998年に In The City by the Sea で作家デビュー。
2007年、英国に移住。13年に英国籍を取得。アイデンティティの問題に悩むマイノリティの主人公、というテーマで国際色豊かな作品を書き続ける。
2017年『帰りたい』でブッカー賞最終候補、2018年の女性小説賞を受賞。本邦初訳。
BBCが選ぶ『わたしたちの世界をつくった小説ベスト100』の政治・権力・抗議活動部門で10作品のひとつに選ばれた(対象は過去300年間に書かれた英語の小説)。「ガーディアン」「ニューヨーク・タイムズ」「オブザーバー」「テレグラフ」など各紙で〈ブック・オブ・ザ・イヤー〉を獲得した。
カミーラ・シャムジー の作品紹介
『帰りたい』2022/06/27
『焦げついた影』2025/7/3

